どこかの扉の向こう。
斜陽街でないどこか。
見世物小屋がやってきた。
広場にいくつか、原色のテントがある。
「さぁさ、いらっしゃい!」
ピエロが呼び込みをしている。
普通のピエロのはずなのに、
なんだか妙に笑顔が怖い。
はりついたような、そんな笑顔だ。
「チャーリー・ジャックの見世物小屋だよ!」
ピエロが声を上げる。
人が、一人また一人と、
テントに入っていく。
小さいテントでは、
檻の中にいる動物を置いていた。
みんな、目を背けたくなるほど奇形だ。
それでも、檻の中の奇形動物は、
純粋な目で、お客を見ている。
背徳のような好奇心のような、
複雑な思いをお客は抱く。
大きなテントでは、
チャーリー・ジャックというピエロと、
奇形の…今度は人間だ。
小さな人間、
足のない人間、
普通なら、いないことにされる、
奇形の人間たちの芸。
芸が成功するたび、
お客は拍手をするが、
心の何かを押さえつけたような、
奇形動物を見るのとは違う、
何らかの暗い気持ちがあった。
「目を背けないでください」
チャーリー・ジャックはささやく。
「彼らも生きているのです。理性もあるし、あなたたちを見ています」
お客は、何かに魅入られたように、
ステージを見る。
明かりの少ないステージ。
黄昏に現れた、極彩色の悪夢。
奇形の織り成す、
心まで歪むような悪夢。
目だけが純粋で、
大粒の宝石のように輝いている。
チャーリー・ジャックはうなずく。
「全てを受け入れなさい。これは、受け入れることなのです」
聖職者のように厳かに。
それでも、どこか恐ろしいピエロ。
チャーリー・ジャックはお客の心を捕らえる。
「肉を食べれば肉になり。憎しみの肉の鎖たり」
チャーリー・ジャックは呪文のように唱えて、
何かを感じたらしく、うなずく。
「さぁさみなさん、次は狼男です」
お客はステージに釘付けになっている。
「お茶をかがせると変身してしまう、奇妙な狼男です」
お客は、目を見開いたまま、ステージを凝視している。
瞬きすら忘れたように、
身動きすら忘れたように。
奇妙なもの、奇怪なステージ、笑うピエロのとりこになる。
見世物小屋は、悪夢をちりばめ、どこかをまわっているらしい。