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第302話 見世物

どこかの扉の向こう。

斜陽街でないどこか。


見世物小屋がやってきた。

広場にいくつか、原色のテントがある。

「さぁさ、いらっしゃい!」

ピエロが呼び込みをしている。

普通のピエロのはずなのに、

なんだか妙に笑顔が怖い。

はりついたような、そんな笑顔だ。

「チャーリー・ジャックの見世物小屋だよ!」

ピエロが声を上げる。

人が、一人また一人と、

テントに入っていく。


小さいテントでは、

檻の中にいる動物を置いていた。

みんな、目を背けたくなるほど奇形だ。

それでも、檻の中の奇形動物は、

純粋な目で、お客を見ている。

背徳のような好奇心のような、

複雑な思いをお客は抱く。


大きなテントでは、

チャーリー・ジャックというピエロと、

奇形の…今度は人間だ。

小さな人間、

足のない人間、

普通なら、いないことにされる、

奇形の人間たちの芸。

芸が成功するたび、

お客は拍手をするが、

心の何かを押さえつけたような、

奇形動物を見るのとは違う、

何らかの暗い気持ちがあった。


「目を背けないでください」

チャーリー・ジャックはささやく。

「彼らも生きているのです。理性もあるし、あなたたちを見ています」

お客は、何かに魅入られたように、

ステージを見る。

明かりの少ないステージ。

黄昏に現れた、極彩色の悪夢。

奇形の織り成す、

心まで歪むような悪夢。

目だけが純粋で、

大粒の宝石のように輝いている。

チャーリー・ジャックはうなずく。

「全てを受け入れなさい。これは、受け入れることなのです」

聖職者のように厳かに。

それでも、どこか恐ろしいピエロ。

チャーリー・ジャックはお客の心を捕らえる。

「肉を食べれば肉になり。憎しみの肉の鎖たり」

チャーリー・ジャックは呪文のように唱えて、

何かを感じたらしく、うなずく。

「さぁさみなさん、次は狼男です」

お客はステージに釘付けになっている。

「お茶をかがせると変身してしまう、奇妙な狼男です」

お客は、目を見開いたまま、ステージを凝視している。

瞬きすら忘れたように、

身動きすら忘れたように。

奇妙なもの、奇怪なステージ、笑うピエロのとりこになる。


見世物小屋は、悪夢をちりばめ、どこかをまわっているらしい。

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