斜陽街三番街、がらくた横丁。
螺子師はお客からの持込の品を見ていた。
「歯車屋ってないですからね」
螺子師はそういうと、品を手にとってしげしげと見た。
手のひらサイズの歯車だ。
きれいな銀色をしていて、
その歯もきらきら輝いている。
客は不安そうな顔をしたらしい。
「大丈夫ですよ」
螺子師は笑った。
「この手の仕組みは得意なんです」
客はちょっと安心したらしい。
螺子師が店を持つには、
仕組みの資格試験のようなものがある。
あらゆる仕掛け仕組みの原点に返り、
その仕組みを螺子でどうにかするものや、
また、他の仕組みの具合の見方などを試験する。
螺子師というのは、そういった試験をクリアしてきた、
一応エキスパートなのだ。
螺子師は歯車をくるくる回す。
普段使わない器具を引っ張り出して、
歯車の調整に当たる。
鋭い目をして、螺子師は歯車を見る。
「ああ、欠けてるのか」
螺子師は歯車を止めると、
器具をガチャガチャいじりだす。
「埋めるには…この素材だと…」
ぶつぶつ独り言を言いながら、確認する。
細かい作業になるようだ。
螺子師は歯車にかかりきりの姿勢になった。
小さな音がする。
螺子師が歯車の調整をする金属音。
相当集中しているらしい。
何も聞こえないような状態だ。
外を子どもがかけていく声がする。
静かな店内に、
螺子師は集中して、
どこかのお客は椅子に座って待っている。
やがて、螺子師は一息ついた。
大きくため息をつく。
「こんなものかな」
螺子師は機材をどかすと、
作業場をちょっと整えた。
「お茶入れますか?」
螺子師はお客に問う。
お客はうなずいた。
「探偵の助手に、いいお茶屋を紹介してもらってね」
螺子師は奥に行くと、
お茶を2杯入れて戻ってきた。
お客はお茶を飲み、ほうとため息ついた。
螺子師は微笑んだ。
「しかし、丈夫な歯車ですね」
螺子師は感想を述べる。
「相当使い込む歯車でしょうね」
お客はうなずき、
「…風のシステムの歯車なのです…」
と、消え入りそうに答えた。
螺子師はうなずき、茶を飲んだ。
「それじゃ、念入りに調節しときますよ」
螺子師は空の湯飲みを置くと、また、仕事場に戻った。