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第299話 王国

どこかの扉の向こう。

斜陽街でないどこか。


王国があった。

豊かな王国だ。

そこは真面目な王が統治しており、

傍にいるものも則を外れることはなく、

何年も、その王国は安泰であった。


緑はあちこちに茂り、

川はさまざまな場所を流れ、

人は行きかいし、

市場は賑わい、

笑顔のあふれる王国だ。


その王国に、姫がいた。

アキ姫という。

アキ姫は、次の女王を約束されている。

王位を継ぐのが男だの女だのは、

あまり関係ないらしい。

今の王の娘で、なおかつ、国民に愛されている姫。

だから、次の女王とされているらしい。


アキ姫は、好奇心旺盛で、

やんちゃな少女だ。

赤毛が長く、ふわふわとしている。

傍仕えの騎士を引っ張りまわして遊んだり、

博識の博士を困らせるような質問をしたり、

その目には、いつでも世界は新鮮に映り、

アキ姫はいつでも新しいことを追い求めていた。

知識を、経験を、楽しいことを。

そして何より皆の笑顔を。

やんちゃかもしれないが、

底抜けに優しい姫だ。


「姫!」

アキ姫を探す声がかかる。

アキ姫は今、傍仕えの騎士から隠れている。

「アキ姫!」

騎士の名はシュバルツ、黒髪の若い騎士で、

アキ姫が一番おもちゃにしている、真面目な騎士だ。

「アキ姫!子猫は飼ってもいいですから、出てきてください!」

アキ姫は、中庭の植え込みに隠れている。

軽装のドレスのふちが、植え込みの端っこから、はみ出ている。

はみ出していることに、アキ姫は気がつかない。

シュバルツも気がつかない。

「アキ姫!」

シュバルツは、泣きそうだ。

アキ姫は、植え込みの中でほくそ笑んだ。

(猫捨ててこいなんて、いうからだぞ)

アキ姫の腕の中に、子猫が一匹。

小さくにゃーと鳴いた。

(よしよし、シュバルツをもうちょっと困らせてから、出よう)

アキ姫は、子猫の頭をなでる。

「アキ姫!後生です!出てきてください!」

シュバルツは、中庭に向かって呼びかける。

アキ姫がもったいぶって出ようとすると、

子猫がひょいとアキ姫から逃げ出した。

「あ、こら」

子猫はひょいひょいと逃げていく。

アキ姫は植え込みから出て追いかける。


「アキ姫!」

シュバルツの足元を、猫が逃げていく。

「追いかけろシュバルツ!説教はそのあとだ!」

「はい!」


平和な王国である。

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