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第295話 鈴鳴

鈴の音が鳴る。

斜陽街に鈴の音が鳴る。

天使がやってきた。

扉をくぐって、鈴を羽につけた、

天使が斜陽街にやってきた。


扉屋の、取っ手に鈴のついた扉から、

天使はふわりとやってきた。

扉屋は相変わらず、

何が来たかも興味ないようで、

いつものように、ほったらかしだ。


顔のない天使は、斜陽街へと出ると、

斜陽街の風をその身に受けた。

羽を広げる。

鈴が鳴る。

斜陽街の風が、異世界の鈴を鳴らす。


天使は上を向くと、

羽を大きく羽ばたかせた。

ぼんやりした斜陽街を飛ぶ。

あまり高くなく、羽が邪魔にならない程度。

人の息遣いが感じられる高さで飛ぶ。

羽ばたくたびに、鈴が鳴る。

祝福の鈴が鳴る。

聞こえるものもいるかもしれない。

聞こえないものもいるかもしれない。

涼やかな音、温かみのある音、

祈りの音、かなえる音、

鈴はそのすべてを内包しているように聞こえる。


天使は斜陽街の路地を飛んでいく。

誰も天使を気にしない。

また、風変わりなのが来たかな、程度らしい。

天使も表情は見えないが、

なんだか路地を飛ぶのが気に入ったらしい。

選んで狭いところを飛んでいく。

ゆっくりと、たまに速く、

しゃーん、しゃーん、

鈴は言葉のように鳴り響く。


ある通りを天使が飛んでいった。

しゃーん、しゃーんと鈴が鳴り、

天使は通り過ぎていった。

ころころ…

あとに残された鈴が一つ。

「あらあら。落としていったのね」

壁から声。

おしゃべりスキンヘッドのマネキンだ。

「ここは落ち物通りなのに」

マネキンは、生えている右手を回す。

「誰も教えてくれなかったのかしら」

マネキンは困った表情をする。

「この鈴どうしようかしら」

マネキンが困っていると、

落ち物通りに住み着いた、浮浪者の気配。

「あらあら、この鈴使うの?知らないわよ、何があっても」

浮浪者の気配が、実体を持ち始める。

「あの天使も戻ってこないみたいだし、どうしようかしら」

マネキンはため息をついた。

浮浪者の気配が多くなる。

「異世界のものに手を出して、何かあっても知らないわよ」


天使はそんなことも知らず、

どこかを飛び回っているらしい。

遠くで、鈴の鳴る音がした。

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