鈴の音が鳴る。
斜陽街に鈴の音が鳴る。
天使がやってきた。
扉をくぐって、鈴を羽につけた、
天使が斜陽街にやってきた。
扉屋の、取っ手に鈴のついた扉から、
天使はふわりとやってきた。
扉屋は相変わらず、
何が来たかも興味ないようで、
いつものように、ほったらかしだ。
顔のない天使は、斜陽街へと出ると、
斜陽街の風をその身に受けた。
羽を広げる。
鈴が鳴る。
斜陽街の風が、異世界の鈴を鳴らす。
天使は上を向くと、
羽を大きく羽ばたかせた。
ぼんやりした斜陽街を飛ぶ。
あまり高くなく、羽が邪魔にならない程度。
人の息遣いが感じられる高さで飛ぶ。
羽ばたくたびに、鈴が鳴る。
祝福の鈴が鳴る。
聞こえるものもいるかもしれない。
聞こえないものもいるかもしれない。
涼やかな音、温かみのある音、
祈りの音、かなえる音、
鈴はそのすべてを内包しているように聞こえる。
天使は斜陽街の路地を飛んでいく。
誰も天使を気にしない。
また、風変わりなのが来たかな、程度らしい。
天使も表情は見えないが、
なんだか路地を飛ぶのが気に入ったらしい。
選んで狭いところを飛んでいく。
ゆっくりと、たまに速く、
しゃーん、しゃーん、
鈴は言葉のように鳴り響く。
ある通りを天使が飛んでいった。
しゃーん、しゃーんと鈴が鳴り、
天使は通り過ぎていった。
ころころ…
あとに残された鈴が一つ。
「あらあら。落としていったのね」
壁から声。
おしゃべりスキンヘッドのマネキンだ。
「ここは落ち物通りなのに」
マネキンは、生えている右手を回す。
「誰も教えてくれなかったのかしら」
マネキンは困った表情をする。
「この鈴どうしようかしら」
マネキンが困っていると、
落ち物通りに住み着いた、浮浪者の気配。
「あらあら、この鈴使うの?知らないわよ、何があっても」
浮浪者の気配が、実体を持ち始める。
「あの天使も戻ってこないみたいだし、どうしようかしら」
マネキンはため息をついた。
浮浪者の気配が多くなる。
「異世界のものに手を出して、何かあっても知らないわよ」
天使はそんなことも知らず、
どこかを飛び回っているらしい。
遠くで、鈴の鳴る音がした。