斜陽街三番街。がらくた横丁。
合成屋はこのごみごみした横丁で、
合成を扱う店を営んでいる。
黒いローブ。白い仮面には、目の穴すらない。
両腕は義手らしい。きちきちと鳴る。
髪は普通に黒く短め。
男か女かもわからない。
それでも、悪意はないらしい。
「うーん」
合成屋は、『賢者の井戸』の側でうなっている。
まじめに悩んでいるらしいが、
どうも迫力のない声色である。
「ううーん」
合成屋は、身体ごと首をかしげるしぐさをした。
大いに悩んでいるらしい。
表情はわからない。
身体を傾けすぎて、合成屋は転がった。
がく、ごろ、がつん
一連の動きを滞りなくして、
合成屋は頭を打って、しばらく沈黙。
やがてひょっこりと起き上がる。
「いたいなぁ…」
合成屋は頭を振る。
そして、
「やっぱり、やってみないとわからなぁい」
迫力なくそう言うと、
合成屋は、倉庫に向かった。
ちょっと間があり、合成屋が戻ってくる。
義手の腕いっぱいに、果実を山ほど。
普通にわかるものから、よくわからないものまで。
「さぁ、いくぞぉ」
合成屋は、一度果実を『賢者の井戸』の側に置くと、
片っ端から『賢者の井戸』に投げ込みだした。
「えいえい!」
山のような果実が、どんどん井戸に吸い込まれていく。
井戸の水面は、波紋が出来ると、やがて静かになった。
合成屋は、こっくりうなずき、大きな器をもって来る。
大きな器を置くと、
合成屋はもにゃもにゃと呪文を唱え、
『賢者の井戸』を蹴飛ばした。
ごん!
重い音がする。
一拍間をおき、
『賢者の井戸』から上へと流れが起きる。
合成屋は器を構える。
そこへと流れが落ちる。
とぽとぽとぽ…
合成屋の店に、はじけるほどの果実のにおいが満ちる。
やがて流れは収まった。
合成屋はうなずく。
「百パーセントジュースの出来上がりぃ」
合成屋は器を置き、軽く踊るようなしぐさをする。
「反応も良好ですし、きっとおいしいはずぅ」
合成屋はポーズを決める。
「合成香料着色なし!自然のジュース!」
びしっと決めてみる。
「さぁ、みんなに声をかけましょう」
合成屋は弾む足取りでがらくた横丁に出て行った。
散々悩んだだけあり、
かなりの自信作の、果実のジュースらしい。