これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
アルミの細工のしてある扉の向こうの物語。
ウゲツとネココの自転車は、
見知っているような、見知らぬ町を行く。
かすかな音を立てて、自転車は走る。
ウゲツはペダルを踏む。
重くない。
町の中を自転車は走る。
遠くを目指して。
懐かしい遠くを目指して。
「がんばれウゲツ」
後ろでネココが応援する。
ウゲツは、ネココのぬくもりを感じる。
居心地のいい寝床の中のような、
そんなぬくもり。
ウゲツはペダルをまた、踏む。
自転車は小さい音を立てて、どんどん進んだ。
やがて、ウゲツは自転車のペダルが、
微妙に軽くなったことに気がつく。
いっぱい踏んでいないのに、
なんだかスピードがつく。
バランスは崩れないが、
微妙に速い気がする。
ウゲツは不思議に思った。
それはネココにも伝わったらしい。
「ここは、坂道だね。平らな坂道だよ」
ウゲツはそんなものは、知らない。
「坂道に見えない坂道なんだ、まっ平らだけど坂道なんだ」
ネココが説明してくれる。
なるほど、そういうものかもしれない。
ウゲツは納得すると、
平らな坂道を、スピードのままに走った。
店や家が、通り過ぎていく。
こがなくても速い。
風が髪をくすぐる。
速い。
やがて、ウゲツの目の前に、下り坂道が見えた。
ウゲツはスピードのまま、
下り坂道に入ろうとする。
「今度はちょっと大変だよ。下り上り坂道だ」
ウゲツはそんなものは、知らない。
「下りに見えるけど、上りなんだ。きっとゆっくりになるよ」
ネココが説明してくれる。
ウゲツは心の準備をした。
次の下り坂らしいものに入ると、
自転車のペダルが重くなった。
下っているのに、まるで上り坂だ。
「がんばれウゲツ」
ネココが応援する。
疲れることもないし、
バランスが崩れるわけでもない。
後ろのネココはあたたかいし、
ウゲツはなんだかきもちいい。
ウゲツは下り上り坂道を走る。
ゆっくり、確実に。
自転車は、坂道越えた。
「さぁ、どんどん遠くに行こうよ」
後ろのネココが応援する。
ウゲツは小さくうなずき、
また、ペダルを踏んだ。