斜陽街番外地。
廃ビルのわりと近くに、人形師がいる。
家とも言いがたいし、
店とも言いがたい。
ねぐらというのもちょっと違う。
人形師は、基本的にそこに住んでいて、
びっくりさせる人形を作るのが趣味だ。
人形師は、多くの人形に見守られながら、
一つ、人形を作っていた。
顔は陶器のようなもの、
身体は布や何かを合わせたもの、
別途、服があるらしい。
人形師は、新しい人形の身体に、
器用に綿を詰めていく。
ある程度具合を調整をしたり、
陶器の顔の具合も見たりする。
陶器の顔は、男の顔だ。
精悍な顔というものかもしれない。
よくできた傷のようなものもある。
人形師は綿をつめる。
身体にはらわたを入れるようなものか、
あるいは、人形に形を持たせるものか。
人形には様々の形がある。
人の、形。
全てに綿が詰まっているわけではない。
でも、人形師の人形には、
人形師の思いが、詰まっている。
他の思いを詰め込むと、
膨れてしまうくらいに詰まっている。
人形師は、新しい人形の綿の具合を見た。
あちこち握ってみる。
やわらかく、それでいて硬い。
以前は、思いを乗せた歌があったものだった。
あの時は、人形が膨れて大変だった。
人形師は思い返す。
そのときに比べれば、平和になったものだと。
人形に服を着せる。
手を通し、足を通し、
ピシッと人形が決まる。
それは、精悍な顔をした、軍人の人形になった。
どこの国かはわからない。
どこの軍かもわからない。
ただ、軍人という印象。
陶器の顔が、きりりとしている所為もあるのだろう。
「はて」
人形師は困った顔をする。
「何かが足りないね」
軍服らしいものも着せた。
それでも、何かが足りないような感じがする。
しゃきっとしていて、綿はちゃんと詰まっている。
人形師の思いも詰め込んだ。
それなのに何かが足りない。
持ち物だろうか。
軍人が何も持っていないというのが、
人形師のイメージでは、ちょっと足りないらしい。
「ジョン、行こうか」
人形師は、軍人人形をかばんに入れると、
斜陽街に出て行った。