斜陽街番外地。
風の吹きだまる場所に、扉屋がある。
扉屋から出て行くもの、
扉屋から入ってくるもの。
様々の人が行きかいする。
風はそのたびに斜陽街に吹き、
扉屋は、いつものように営業している。
そう広くなく見える扉屋店内。
実に様々の扉が立てかけられていて、
なおも扉屋の主人は扉を作っている。
広い店内なのかもしれないが、
無数の扉に区切られているように見える。
扉屋の主人は、
店内のちょっと空いているスペースで、
いつも扉を作っている。
扉を売る商売ではない。
扉屋の主人は、扉をつくる。
あくまで扉をつくる。
扉がどこかをつなぐのは、
誰かが開くから。
扉屋の主人の仕事ではない。
今日は扉屋の主人は、溶接をしている。
大きな金属の扉のもと。
扉の形を整えつつ、
様々の装飾を溶接する。
バーナーらしいものを使っているらしい。
炎が上がったり、火花が飛び散ったりする。
扉屋の主人は何も言わないが、
扉を作ることに関するものならば、
なんでも店のどこかに置いてあるものらしい。
金属の溶接もその一つだ。
木の扉、ガラスの扉、金属の扉…
ここには何でもあるらしい。
この金属の扉も、
完成すれば、誰かが開くかもしれない。
開いた世界の話は、扉屋の主人は、知らないらしい。
ただ、扉を出て行ったものが帰ってくるかどうか、
それだけはわかることは、わかる。
もくもくと扉を作っていることが多いので、
あえてたずねられない限り、答えることもない。
扉屋の出入り口の向こう。
斜陽街で風が吹く。
誰かが来たのか誰かが行ったのか。
扉屋の主人は、わかっているかもしれない。
問われない限り、扉屋の主人はもくもくと扉を作っている。
いつ始まって、いつ終わるのか。
いつまで扉を作るのか。
問われても多分、扉屋の主人は答えないだろう。
わからないのかもしれないし、
わかっていても伝える言葉を持っていないかもしれない。
火花が飛ぶ。
飾りが溶接される。
大きな火花を撒き散らして。
扉屋に新しい扉が並ぶのも、もうすぐらしい。
いつものように扉屋の主人は、扉を作って、
一休みすると、また、次の扉に取り掛かる。
そんな、扉屋の日常である。