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第289話 溶接

斜陽街番外地。

風の吹きだまる場所に、扉屋がある。

扉屋から出て行くもの、

扉屋から入ってくるもの。

様々の人が行きかいする。

風はそのたびに斜陽街に吹き、

扉屋は、いつものように営業している。


そう広くなく見える扉屋店内。

実に様々の扉が立てかけられていて、

なおも扉屋の主人は扉を作っている。

広い店内なのかもしれないが、

無数の扉に区切られているように見える。

扉屋の主人は、

店内のちょっと空いているスペースで、

いつも扉を作っている。

扉を売る商売ではない。

扉屋の主人は、扉をつくる。

あくまで扉をつくる。

扉がどこかをつなぐのは、

誰かが開くから。

扉屋の主人の仕事ではない。


今日は扉屋の主人は、溶接をしている。

大きな金属の扉のもと。

扉の形を整えつつ、

様々の装飾を溶接する。

バーナーらしいものを使っているらしい。

炎が上がったり、火花が飛び散ったりする。

扉屋の主人は何も言わないが、

扉を作ることに関するものならば、

なんでも店のどこかに置いてあるものらしい。

金属の溶接もその一つだ。

木の扉、ガラスの扉、金属の扉…

ここには何でもあるらしい。


この金属の扉も、

完成すれば、誰かが開くかもしれない。

開いた世界の話は、扉屋の主人は、知らないらしい。

ただ、扉を出て行ったものが帰ってくるかどうか、

それだけはわかることは、わかる。

もくもくと扉を作っていることが多いので、

あえてたずねられない限り、答えることもない。


扉屋の出入り口の向こう。

斜陽街で風が吹く。

誰かが来たのか誰かが行ったのか。

扉屋の主人は、わかっているかもしれない。

問われない限り、扉屋の主人はもくもくと扉を作っている。

いつ始まって、いつ終わるのか。

いつまで扉を作るのか。

問われても多分、扉屋の主人は答えないだろう。

わからないのかもしれないし、

わかっていても伝える言葉を持っていないかもしれない。


火花が飛ぶ。

飾りが溶接される。

大きな火花を撒き散らして。

扉屋に新しい扉が並ぶのも、もうすぐらしい。

いつものように扉屋の主人は、扉を作って、

一休みすると、また、次の扉に取り掛かる。

そんな、扉屋の日常である。

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