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第288話 植物

斜陽街三番街。

一番街から三番街に入ると、

がらくた横丁・まんぷく食堂の側と、

教会のある側に分かれている。

教会のあるほうに、花術師のおばあさんは歩いていた。

小さな、おしゃれな篭を持っている。


花術師。

主に花を咲かせる術を持っているらしい。

様々の植物を操っている、おばあさんらしい。

足腰わりとしゃんとしていて、

気品のあるおばあさんだ。


花術師は、教会までやってきた。

廃墟のような教会。

十字架にかけられた像も、崩れたか朽ちたかしたらしい。

神様のいない教会のようなところ。

たまに懺悔に来る住人もいるらしい。

植物が生い茂っている。

花を咲かせるものかどうかはわからない。

多分雑草と呼ばれる、雑多なものだろう。


花術師は、雑草にそっと触れる。

風でも吹いたか、意思でもあるのかのように、

雑草は道をあける。

花術師は、とことこと教会の中心らしいところに行く。

そして、篭をごそごそとする。

「さてと、どう出るかしらね」

花術師はつぶやき、篭から手を出すと、

ぱらぱらと何かをまいた。


「かわいいかわいい種さんたち、ここではどんな花をつけるの?」

花術師が呪文のように問いかける。

すると、種の落ちたそこから、

ニョキニョキと芽が出て育ち…

花術師の腰辺りまで伸びて、しおれてしまった。

花も咲かない。

しなしなとなると、雑草の中に埋もれてしまった。


花術師は、納得したらしい。

「この種は、もっと汚れたところじゃないと、だめのようね」

一人、うなずく。

「上出来上出来。頼まれた種になっていそうね」

花術師は、うれしそうに目を細めた。

「さてさて、お店に戻って仕上げましょうか」

花術師は再び、雑草に触れる。

雑草はまた、道をあける。

花術師はとことこ歩いて、教会をあとにした。


教会の雑草は、花術師を見送ると、

また、いつものように生い茂って見せた。

あっちこっち、もじゃもじゃと。

花術師の実験した、植物すら飲み込んで。

その植物が何のための植物なのか、

雑草たちは、知らない。

知らなくても構わないのかもしれない。


教会は静かに、いつもの風景になった。

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