斜陽街三番街。
一番街から三番街に入ると、
がらくた横丁・まんぷく食堂の側と、
教会のある側に分かれている。
教会のあるほうに、花術師のおばあさんは歩いていた。
小さな、おしゃれな篭を持っている。
花術師。
主に花を咲かせる術を持っているらしい。
様々の植物を操っている、おばあさんらしい。
足腰わりとしゃんとしていて、
気品のあるおばあさんだ。
花術師は、教会までやってきた。
廃墟のような教会。
十字架にかけられた像も、崩れたか朽ちたかしたらしい。
神様のいない教会のようなところ。
たまに懺悔に来る住人もいるらしい。
植物が生い茂っている。
花を咲かせるものかどうかはわからない。
多分雑草と呼ばれる、雑多なものだろう。
花術師は、雑草にそっと触れる。
風でも吹いたか、意思でもあるのかのように、
雑草は道をあける。
花術師は、とことこと教会の中心らしいところに行く。
そして、篭をごそごそとする。
「さてと、どう出るかしらね」
花術師はつぶやき、篭から手を出すと、
ぱらぱらと何かをまいた。
「かわいいかわいい種さんたち、ここではどんな花をつけるの?」
花術師が呪文のように問いかける。
すると、種の落ちたそこから、
ニョキニョキと芽が出て育ち…
花術師の腰辺りまで伸びて、しおれてしまった。
花も咲かない。
しなしなとなると、雑草の中に埋もれてしまった。
花術師は、納得したらしい。
「この種は、もっと汚れたところじゃないと、だめのようね」
一人、うなずく。
「上出来上出来。頼まれた種になっていそうね」
花術師は、うれしそうに目を細めた。
「さてさて、お店に戻って仕上げましょうか」
花術師は再び、雑草に触れる。
雑草はまた、道をあける。
花術師はとことこ歩いて、教会をあとにした。
教会の雑草は、花術師を見送ると、
また、いつものように生い茂って見せた。
あっちこっち、もじゃもじゃと。
花術師の実験した、植物すら飲み込んで。
その植物が何のための植物なのか、
雑草たちは、知らない。
知らなくても構わないのかもしれない。
教会は静かに、いつもの風景になった。