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第286話 氷

斜陽街三番街。

がらくた横丁近く、まんぷく食堂のある広場。

もとは空き地だが、

今は、おじいさんとおばあさんで露天の食堂を営んでいる。


斜陽街の子どもたちが、集まることもある。

そんな時は、おじいさんとおばあさんで、

手作りのお菓子をあげることもある。

駄菓子よりあったかいもの、

焼き菓子だったりするもの、

ほこほこ甘いもの。

そんなものが多い。


またあるとき。

おじいさんが、大きな箱を引っ張り出した。

子どもたちは興味しんしんで見ている。

「あれをやるんですね」

おばあさんは、わかっている。

おじいさんは、いつもの仏頂面のままうなずく。

そして、箱から取り出したのは、かき氷の機械だ。

横にハンドルがついている、ちょっと大型のものだ。

「…がらくた横丁の連中も呼んで来い」

おじいさんは、ぼそっとつぶやく。

おばあさんは、にっこり笑ってうなずいた。


おじいさんは、機械に大きな四角い氷をセットする。

器もセットすると、

おもむろにかき氷を始める。


ごりっ

しゃーこしゃーこしゃーこ…


雪のように氷が舞い落ちる。

きらきらはらはらと。

淡く真っ白い氷。

美しい氷の山が作られる。

おじいさんはちょっとだけ形を整えると、

仏頂面のまま、器を取り出した。

おばあさんが受け取る。

「さぁさ、何シロップがいい?」

おばあさんが子どもに問いかける。

子どもたちがきゃっきゃとはしゃいでいる。

おじいさんは難しい顔のまま、また、氷をかく。


「どうもー。まんぷく食堂さんで、かき氷やってるんだって?」

ひょっこりやってきたのは、薬師だ。

子どもたちが色とりどりの氷を見せる。

「いやはや、きれいだねー。あ、あたしも氷ちょうだい」

「シロップはどうしますか?」

「お薬シロップ使ってみるよ。調合してみたんだ」

「おやまぁ」

おばあさんは、穏やかに驚いてみせる。

薬師は、得意げにシロップを見せる。

「苦い薬も飲めるように、いろいろやってるの」

「あらあらそうなの」

「…氷、出来たぞ」

おじいさんが、ぶすっとして氷を差し出す。

薬師は受け取ると、シロップをかけて食べだす。

子どもたちから、おかわりの声がかかる。

そんな、まんぷく食堂の風景である。

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