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第284話 天使

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

取っ手に鈴のついた扉の向こうの物語。


その世界には、天使がいた。

真っ白な羽で空を飛ぶ、天使。

白いローブに金髪。

ただし、その顔は、ない。

顔のあるべきところには、何のパーツもない。

人の形をしながら、人でないもの、

人を超えているかもしれないもの。

唯一の神には、どうも仕えていないようなもの。

それでも、天から使わされたであろうもの。

人の姿かたちをしているもの。

それでも、人にはなかなか見えないもの。

そんな、天使だ。


その世界には、

鈴のなっている木がある。

一年に一度、鈴の木は、鈴を実につける。

花が咲いて、しぼんだそのあと、

果実として鈴がなる。

大きな木に、大量の鈴がなる。

天使は、その鈴を羽にくくりつけて、

羽ばたくのを好んでいるらしい。

羽ばたくたびに、

祝福するような鈴の音色が、

しゃーん、しゃーんと。


天使の表情はわからない。

それでも、天使は羽に鈴をつけて、

あっちこっちを飛び回っている。


しゃーん、しゃーん。

その世界に鈴がなる。

かすかに天使の鈴が鳴る。

夜には眠りを、

朝には安息を、

植物には実りを、

人には祝福を。

小さな小さな鈴の音色。

人と同じくらいのサイズでありながら、

天使は誰にも気づかれず、

羽ばたき、鈴を鳴らし、祝福する。

風にも乗って、雲にも乗って。


鈴で飾った天使の羽。

表情のまったくない天使。

機械的でもありながら、

限りなく慈愛をこめて、祝福を伝える。


天使は、その世界の片隅に、

打ち捨てられた扉を見つけた。

取っ手に鈴がついている。

天使がそっと取っ手の鈴に触れると、

羽の鈴と取っ手の鈴は共鳴して、

小刻みに震えだした。

天使は、そっと扉を開く。

鈴が、大きく、一度、鳴る。


しゃん!


天使は扉の向こうに足を踏み入れた。

扉は天使を吸い込み、

やがて、扉は閉まった。


天使は扉の向こうへ。

取っ手の鈴が、ころころと小さな音を立てた。

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