これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
アルミの細工のしてある扉の向こうの物語。
少年がその町にいた。
町は静かな町。
中心の繁華街に行けば、それなりに、にぎわっている。
少年は、いわゆる郊外に住んでいる。
ある日。
静かな郊外の住宅街。
そこがいつもより静かな日。
少年は、静かな高揚感と緊張感を感じた。
町はいつもと変わらないのに静かで、
明るいのに、眠っているような、
町が夢を見ているような感覚がした。
少年は、ぼやけた太陽のもと、
自転車を持ち出した。
静かな町に、自転車が地面と触れ合う音がする。
少年は、どこかへ行かなくてはいけないかなと思った。
どこかで誰かが待っている。
そんな気がした。
少年は自転車をこぎだす。
やがて少年の自転車は、
知っているけれど知らない通りに出た。
遠くに来たのだろうか。
それでも、なぜかその場所を知っている気がした。
なんとなく、懐かしい。
小さな交差点。
その角に、少女がいる。
その少女を、少年は、なぜか懐かしく思った。
少女は少年に気がついた。
顔を上げる。
猫のような目。揺れる黒髪。
きれいなワンピースのような気がする。
少年は少女に近づく。
少女は微笑んだ。
「私を乗せてよ」
少年は答えに戸惑ったが、
後ろにいつしか荷台があることに気がつく。
「乗っていい?」
少年はうなずく。
「君の名前は?」
少女の問いかけに、少年は考える。
そういえば自分の名前は、なんといっただろうか。
少女はその考えを読み取ったらしい。
「君はウゲツ。あたしはネココ。それでどう?」
少年…ウゲツはうなずいた。
ネココは微笑んだ。
ネココは身軽に自転車の荷台に腰掛けた。
「さぁ、遠くに行こうよ」
ネココに言われ、ウゲツはペダルを踏む。
小さな音を立てて、自転車が動き出す。
バランスは崩れず、ペダルは軽く。
二人は懐かしい遠くを目指して、
夢見ている町を走り出した。