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第282話 調整

三番街がらくた横丁。

ごみごみした横丁に、螺子師の店がある。

螺子師は螺子を扱う仕事。

身体にある、螺子師しか見えない螺子を、

きつくしたり緩めたりして、バランスをとる仕事だ。

無論、無生物の螺子も扱っている。

とにかく螺子師に言わせれば、

全てに螺子があり、

螺子を調整すると、バランスが取れるのだ。


螺子師は今日も仕事前に、

自分の螺子の調整をしている。

まずは自分からしっかり。

専用のドライバーで、入念に回す。

頭、首、肩…

螺子調整が終わったら、店を開ける。

古ぼけたシャッターを、ガラガラと開ける。

螺子師は深呼吸をする。

螺子の調子がいいように感じる。

気分がいい。

螺子師は店の札を、営業中にしておく。

そして、店の中に戻ると…

「やあ」

ふざけたタキシード、黒の長髪、螺子ドロボウだ。

「何の用だ」

「ちょっと遊びに」

「ふざけるな!」

螺子師は、黄色いサロペットのポケットから、

ドライバーを取り出して、臨戦状態になる。

螺子ドロボウは、にんまり笑って、

「だから、遊びに来ただけだってば」

ドライバーが飛ぶ。

螺子ドロボウは、飛んでくるそれを指2本でひょいとはさむ。

そして、螺子ドロボウは、眉間にしわを寄せた。

「んー?」

無造作に螺子師にドライバーを投げると、

螺子ドロボウは、身体のあちこちこきこきと動かした。

螺子師は、不思議そうにそれを見ている。

が、はっとして、

「何してるんだ!」

と、怒鳴った。

「なんか調子がよくないね」

「知るか」

「螺子の調整してくれるかい?」

「誰がだ!」

「君と僕との仲じゃないか」

螺子ドロボウはにんまり笑う。

螺子師は、さっき合わせた螺子の調子も忘れて、かっとなる。

「ふざけるな!出てけ!」

螺子師は怒鳴った。

螺子ドロボウは、ひょいと螺子師に近寄る。

「今回は、調子悪いから、また今度遊ぼうね」

「あそ…」

螺子師が何か怒鳴ろうとすると、

螺子ドロボウは、指でそれをさえぎった。

「またね」

螺子ドロボウは、螺子師の視界の死角から消えた。


あとに残されたのは、螺子師一人。

螺子師は大きくため息をついた。

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