三番街がらくた横丁。
ごみごみした横丁に、螺子師の店がある。
螺子師は螺子を扱う仕事。
身体にある、螺子師しか見えない螺子を、
きつくしたり緩めたりして、バランスをとる仕事だ。
無論、無生物の螺子も扱っている。
とにかく螺子師に言わせれば、
全てに螺子があり、
螺子を調整すると、バランスが取れるのだ。
螺子師は今日も仕事前に、
自分の螺子の調整をしている。
まずは自分からしっかり。
専用のドライバーで、入念に回す。
頭、首、肩…
螺子調整が終わったら、店を開ける。
古ぼけたシャッターを、ガラガラと開ける。
螺子師は深呼吸をする。
螺子の調子がいいように感じる。
気分がいい。
螺子師は店の札を、営業中にしておく。
そして、店の中に戻ると…
「やあ」
ふざけたタキシード、黒の長髪、螺子ドロボウだ。
「何の用だ」
「ちょっと遊びに」
「ふざけるな!」
螺子師は、黄色いサロペットのポケットから、
ドライバーを取り出して、臨戦状態になる。
螺子ドロボウは、にんまり笑って、
「だから、遊びに来ただけだってば」
ドライバーが飛ぶ。
螺子ドロボウは、飛んでくるそれを指2本でひょいとはさむ。
そして、螺子ドロボウは、眉間にしわを寄せた。
「んー?」
無造作に螺子師にドライバーを投げると、
螺子ドロボウは、身体のあちこちこきこきと動かした。
螺子師は、不思議そうにそれを見ている。
が、はっとして、
「何してるんだ!」
と、怒鳴った。
「なんか調子がよくないね」
「知るか」
「螺子の調整してくれるかい?」
「誰がだ!」
「君と僕との仲じゃないか」
螺子ドロボウはにんまり笑う。
螺子師は、さっき合わせた螺子の調子も忘れて、かっとなる。
「ふざけるな!出てけ!」
螺子師は怒鳴った。
螺子ドロボウは、ひょいと螺子師に近寄る。
「今回は、調子悪いから、また今度遊ぼうね」
「あそ…」
螺子師が何か怒鳴ろうとすると、
螺子ドロボウは、指でそれをさえぎった。
「またね」
螺子ドロボウは、螺子師の視界の死角から消えた。
あとに残されたのは、螺子師一人。
螺子師は大きくため息をついた。