これは斜陽街から電脳を介した世界の物語。
カルーアは、ミルクと積み木遊びしながら思う。
自分は存在しているのか。
あるいは、ただのデータの集まりではないかと。
あらゆる数値からなる、
アルコールというデータの集まりではないかと。
ミルクが、不安そうにカルーアを見上げた。
「カルーア?」
「ごめん、ちょっと、考え事してた」
カルーアは微笑む。
ちょっとだけ、無理をして。
ミルクはそれがわかったらしい。
「みんなここにいるよ」
ミルクはふわぁと笑った。
「みんなアルコールのドームの中に、存在しているよ」
ミルクが、積み木の飛行機に、落書きを添える。
がらくたの集まりのような飛行機は、
グラスの中、果てを目指して飛ぶ。
「思うんだ。きっと有限であり無限の中を、アルコールは、いる」
「ミルク…」
「よくわからない、けれど、カルーアもミルクいるよ」
ミルクは果てまで目指す飛行機のおもちゃを見る。
それはデータの集まりかもしれない。
けれど、おもちゃの飛行機は果てを目指す。
電脳の果てか、
空想の果てか、
この世界の果てか。
「カルーア、忘れないで」
ミルクがカルーアに向き直る。
「僕たちはこのドームの中、確実に存在していること」
カルーアは、うなずいた。
不意に、呼び出しの音。
音声は、カルーアとミルクを呼ぶ。
「僕たちにダイブの要請だね」
「そうだね、ミルク、準備できてる?」
「僕はいつでも」
「ダイブサポート班、このままお客へダイブお願い」
音声が、了解と入る。
そして、ミルクのいた風景から、
めまいしそうなほど、目の前が変わる。
果てを目指す飛行機が、ノイズ交じりにどこかへ消える。
ガラスの棺の中、コードをつながれて眠るままのミルク。
椅子に座ったまま、コードをつながれた自分。
スタンバイしているお客の顔まで、
一瞬、見えた気がした。
今日も誰かの中にダイブしていく。
そして、バグ取りをする。
自分はデータの節目に出来た、
アルコールという存在。
グラスの中に揺らぐ、
お客を酔わせる存在。
カルーアはお客のタイプを分析する。
「ミルク、出力上げといて。攻性がちょっとでも高いとまずい」
「はい」
カルーアが指示を出す。
お客はアルコールに弱いらしい。
「さぁ、バグ取りと行きましょうか」
この電脳に果てはあるのか。
飛行機はどこを目指すのか。
我々はいるのか。
存在の証明はあるのか。
すべては妄想ではないか。
妄想でもいい。
ただ、このときだけ酔うことが出来れば。
酔わせること。それを存在の証明と信じ、
カルーアとミルクは、深層にダイブしていった。