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第277話 存在

これは斜陽街から電脳を介した世界の物語。


カルーアは、ミルクと積み木遊びしながら思う。

自分は存在しているのか。

あるいは、ただのデータの集まりではないかと。

あらゆる数値からなる、

アルコールというデータの集まりではないかと。


ミルクが、不安そうにカルーアを見上げた。

「カルーア?」

「ごめん、ちょっと、考え事してた」

カルーアは微笑む。

ちょっとだけ、無理をして。

ミルクはそれがわかったらしい。

「みんなここにいるよ」

ミルクはふわぁと笑った。

「みんなアルコールのドームの中に、存在しているよ」

ミルクが、積み木の飛行機に、落書きを添える。

がらくたの集まりのような飛行機は、

グラスの中、果てを目指して飛ぶ。

「思うんだ。きっと有限であり無限の中を、アルコールは、いる」

「ミルク…」

「よくわからない、けれど、カルーアもミルクいるよ」

ミルクは果てまで目指す飛行機のおもちゃを見る。


それはデータの集まりかもしれない。

けれど、おもちゃの飛行機は果てを目指す。

電脳の果てか、

空想の果てか、

この世界の果てか。


「カルーア、忘れないで」

ミルクがカルーアに向き直る。

「僕たちはこのドームの中、確実に存在していること」

カルーアは、うなずいた。


不意に、呼び出しの音。

音声は、カルーアとミルクを呼ぶ。

「僕たちにダイブの要請だね」

「そうだね、ミルク、準備できてる?」

「僕はいつでも」

「ダイブサポート班、このままお客へダイブお願い」

音声が、了解と入る。

そして、ミルクのいた風景から、

めまいしそうなほど、目の前が変わる。


果てを目指す飛行機が、ノイズ交じりにどこかへ消える。

ガラスの棺の中、コードをつながれて眠るままのミルク。

椅子に座ったまま、コードをつながれた自分。

スタンバイしているお客の顔まで、

一瞬、見えた気がした。


今日も誰かの中にダイブしていく。

そして、バグ取りをする。

自分はデータの節目に出来た、

アルコールという存在。

グラスの中に揺らぐ、

お客を酔わせる存在。


カルーアはお客のタイプを分析する。

「ミルク、出力上げといて。攻性がちょっとでも高いとまずい」

「はい」

カルーアが指示を出す。

お客はアルコールに弱いらしい。

「さぁ、バグ取りと行きましょうか」


この電脳に果てはあるのか。

飛行機はどこを目指すのか。

我々はいるのか。

存在の証明はあるのか。


すべては妄想ではないか。


妄想でもいい。

ただ、このときだけ酔うことが出来れば。


酔わせること。それを存在の証明と信じ、

カルーアとミルクは、深層にダイブしていった。

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