エリカとヤジマとキタザワ、
そして、マネキンとシキは、
落ち物通りの入り口で語り合った。
大半は、エリカの愚痴だ。
エリカはマシンガンのように不満を乱射する。
「だいたい、勝手に結婚相手決めるなんて…ひどいと思わない?」
エリカの愚痴に、
ヤジマは苦笑いした。
「それでも、エリカが幸せになれる相手を見つけてきたんだろ」
ヤジマが答えれば、
エリカはぷうと頬を膨らます。
「勝手に決めることないと思う!」
ヤジマはエリカの頭をぽんぽんとなでた。
「親ってのは、子どもの幸せばっかり考えてる生き物だと思ってる」
「そんなことない!」
エリカは必死に否定する。
「きっとなぁ…エリカの親は、エリカを幸せにできる結婚相手見つけて…」
「見つけて?」
「浮かれてんだと思う。あんまりにも、エリカを幸せに出来そうだからな」
ヤジマはエリカを見つめる。
エリカはまだ不満げだ。
「それくらい、親ってのは、盲目なんだと、あたしは思う」
ヤジマは、しみじみと言った。
「エリカさん」
キタザワが割り込む。
「結婚しても、道さえ覚えれば、きっと斜陽街に来れると思うんです」
「…うん」
「結婚相手に不満があるようでしたら、また、ここで愚痴を聞きますよ」
「…うん」
シキがふよふよとエリカの周りを飛ぶ。
「きっと俺もいるし、マネキンだっている。ヤジマもキタザワもいる」
「そうよ、おしゃべりのあたしもいるわよ」
「姫として帰るの決めたのもいいけどな、一人の子どもでもあるってこと、忘れないでな」
「そうよそうよ、エリカ姫様」
シキとマネキンがかわるがわる語りかける。
「じゃ、扉屋に行くか」
ヤジマが自然に手を差し出す。
エリカは自然にその手を取った。
ヤジマの手は、働き者の手であり、
ところどころにタコが出来ていたり、荒れているところもあった。
エリカの手は、姫のものらしく、荒れてなどいない。
それでもエリカは、ヤジマの手を、暖かく、素敵なものに感じた。
ヤジマがエリカの手を引き、
扉屋に向かう。
キタザワがついてくる。
マネキンとシキが見送った。
「…ヤジマ」
エリカがポツリと話しかける。
「うん?」
「…ヤジマは、似ているの」
「誰に?」
「昔のお母様」
「ふぅん」
ヤジマは気にも留めなかった。
そんなヤジマに、エリカは手を引かれてついていく。
エリカは思い出す。
幼い幼い頃。
夜ばかりの城から、
母が手を引いて、朝を見せてくれたこと。
そのときの得意げな笑顔が、なんとなくヤジマに重なるのだ。
やがて、扉屋に、ヤジマとキタザワ、エリカはたどり着いた。
エリカは、人影の彫られた扉の前に立った。
エリカの緑色の目に、決意が宿り、
扉をゆっくりと開いた。
「また逢えるかな」
エリカは問いかける。
「斜陽街なら、逢えるよ」
ヤジマが答える。
エリカはうなずいた。
「じゃあね、ジュリアお母様似の、ヤジマさん」
扉はエリカを吸い込み、
そして、また、閉ざされた。