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第276話 親心

エリカとヤジマとキタザワ、

そして、マネキンとシキは、

落ち物通りの入り口で語り合った。

大半は、エリカの愚痴だ。

エリカはマシンガンのように不満を乱射する。

「だいたい、勝手に結婚相手決めるなんて…ひどいと思わない?」

エリカの愚痴に、

ヤジマは苦笑いした。

「それでも、エリカが幸せになれる相手を見つけてきたんだろ」

ヤジマが答えれば、

エリカはぷうと頬を膨らます。

「勝手に決めることないと思う!」

ヤジマはエリカの頭をぽんぽんとなでた。

「親ってのは、子どもの幸せばっかり考えてる生き物だと思ってる」

「そんなことない!」

エリカは必死に否定する。

「きっとなぁ…エリカの親は、エリカを幸せにできる結婚相手見つけて…」

「見つけて?」

「浮かれてんだと思う。あんまりにも、エリカを幸せに出来そうだからな」

ヤジマはエリカを見つめる。

エリカはまだ不満げだ。

「それくらい、親ってのは、盲目なんだと、あたしは思う」

ヤジマは、しみじみと言った。


「エリカさん」

キタザワが割り込む。

「結婚しても、道さえ覚えれば、きっと斜陽街に来れると思うんです」

「…うん」

「結婚相手に不満があるようでしたら、また、ここで愚痴を聞きますよ」

「…うん」

シキがふよふよとエリカの周りを飛ぶ。

「きっと俺もいるし、マネキンだっている。ヤジマもキタザワもいる」

「そうよ、おしゃべりのあたしもいるわよ」

「姫として帰るの決めたのもいいけどな、一人の子どもでもあるってこと、忘れないでな」

「そうよそうよ、エリカ姫様」

シキとマネキンがかわるがわる語りかける。


「じゃ、扉屋に行くか」

ヤジマが自然に手を差し出す。

エリカは自然にその手を取った。

ヤジマの手は、働き者の手であり、

ところどころにタコが出来ていたり、荒れているところもあった。

エリカの手は、姫のものらしく、荒れてなどいない。

それでもエリカは、ヤジマの手を、暖かく、素敵なものに感じた。


ヤジマがエリカの手を引き、

扉屋に向かう。

キタザワがついてくる。

マネキンとシキが見送った。


「…ヤジマ」

エリカがポツリと話しかける。

「うん?」

「…ヤジマは、似ているの」

「誰に?」

「昔のお母様」

「ふぅん」

ヤジマは気にも留めなかった。

そんなヤジマに、エリカは手を引かれてついていく。


エリカは思い出す。

幼い幼い頃。

夜ばかりの城から、

母が手を引いて、朝を見せてくれたこと。

そのときの得意げな笑顔が、なんとなくヤジマに重なるのだ。


やがて、扉屋に、ヤジマとキタザワ、エリカはたどり着いた。

エリカは、人影の彫られた扉の前に立った。

エリカの緑色の目に、決意が宿り、

扉をゆっくりと開いた。


「また逢えるかな」

エリカは問いかける。

「斜陽街なら、逢えるよ」

ヤジマが答える。

エリカはうなずいた。

「じゃあね、ジュリアお母様似の、ヤジマさん」


扉はエリカを吸い込み、

そして、また、閉ざされた。

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