これは、どこかの扉の向こうの物語。
どこともわからない扉の向こうの物語。
そこには、珊瑚礁の海が広がっていた。
遺跡のあとがある。
その近くに、石造りの小さな家があった。
家には、幼い女の子と、隠者が住んでいる。
幼い女の子は、飽きずにおもちゃをいじくっている。
どんなに遊んでも飽きないおもちゃらしい。
隠者は元気に海のそばで暮らしている。
食べられる野草を取ったり、
あるいは、海のそばで農業もするし、
女の子も、そのお手伝いをする。
「ジジ」
女の子が隠者に呼びかける。
隠者はおじいさんと言われるくらいの外見をしている。
それだから、ジジなのかもしれない。
「どうした、ノゾミ」
ジジはゆったりと聞き返す。
女の子は、ノゾミと言うらしい。
「ノゾミはいつまでノゾミなの?」
ノゾミは謎かけのように問う。
「そうだなぁ、ノゾミはいつまでもちっちゃいなぁ」
ジジは穏やかに、ノゾミの頭をなでる。
「ノゾミはお人形さんなのかもしれないな」
「やだ。ノゾミはいろんなノゾミになりたい」
ジジはさびしそうに微笑んだ。
「ジジはわかんないことがたくさんある」
「ジジにも?」
「うん、たくさんある。ノゾミがどうしてそのままかも知らない」
「ジジ…」
ジジはゆっくりと諭すように話す。
「ノゾミはそのままでいいのかもしれない。ジジはそう思うよ」
ノゾミはうなずいた。
ゆっくりした会話が、ふっと途切れると、
ノゾミが何かに気がついた。
「海の向こうから、音がする」
「おやおや…嵐かい」
「違う…と、思う」
ノゾミが曖昧に答えると、
ジジにもわかるくらい、音はだんだん大きくなった。
聞き慣れないモーターの音、エンジンの音、
大きく、大きくなって、
そして、珊瑚礁の広い砂浜に突っ込む音。
「どれ、見に行こうか」
ジジはノゾミの手を取って家を出た。
砂浜には、
がらくたの山のようなものが突っ込んでいた。
ジジとノゾミは見慣れないものを眺めていた。
おもちゃの大きなものに見えないこともない。
やがて、がらくたの山のようなそれから、
そろいの帽子をかぶった人が、二人、飛び出してきた。
「もうちょっと柔らかく着地できないのか」
おじいさん、というくらいの男が毒づく。
「珊瑚礁を壊したくなかったんですよ」
気の弱い、青年が答える。
そして、ジジとノゾミに気がつく。
青年が問いかけた。
「ここは世界の果てですか?」
ジジは、わからないと返した。
「僕たちは、何年も世界の果てを目指しているんですよ」
「どうして?」
ノゾミが問いかける。
「どうしてだかはわからないです。でも、世界の果てを見て…」
「見て?」
「世界の果てから、どこかに帰らなくちゃいけないんです」
「どこへ?」
「世界の果てを見たら、きっと思い出せると思います」
がらくたの山は、簡単に整えられ、
また、大きな音を立てて飛んでいった。
「みんな、わかんないんだね」
「そういうこともある」
ジジは、ゆっくりノゾミの頭をなでた。