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第273話 四季

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

車輪の彫られた扉の向こうの世界の物語。


駆動車のレースが終わり、

アキはほうけたように駆動車の中にいた。

コンコンと運転手側の窓が叩かれる。

アキは顔をころりとそちらに向けた。

フユがにっこりと笑っていた。

アキが窓を開ける。

風がふわりと車内に入ってきて、

車内を程よく冷やす。


「お疲れ様」

言われて、アキはようやくレースが終わったことを感じた。

窓を閉じ、エンジンを止めた。

駆動車の鼓動のような音が止まり、

自分の鼓動が聞こえてくる。


アキはゆっくりドアを開けた。


優勝した駆動車の周りは、

もう、お祭りのようになっていた。

ドライバーが、ナビゲーターが、チームメイトが、

そして、それを祝う者が、

この街の住民も、取材者と思われる者も、

みんなが一緒くたになって祝っていた。


アキはそれを遠くから見ていた。

ナツも、フユも、一緒に見ていた。


自分はあそこに立てなかった。

それが無性に悔しかった。

泣いちゃいけない。

アキは、お祭り騒ぎをにらんだ。

ぎりぎりとにらみつけた。

憎くはない。

ただ、悔しくてにらみつけた。


不意に、そんなアキの頭を、誰かがぽんと叩いた。

振り返れば、ハルだ。

「次にあそこにいるのは、俺たちだ」

ハルは不器用に笑った。

「よくやった」

ハルはぐりぐりとアキの頭を、やはり不器用になでた。


アキの視界はぼやけた。

袖でガシガシと視界をぬぐう。

ぬぐってもぬぐっても、視界はぼやけた。

悔しいという感覚を越えて、

感情がとめどなく溢れた。


やがて、お祭り騒ぎは、

優勝者のインタビューになったらしい。

「さて」

フユが切り出す。

「社長のところに謝りにいきますか」

フユが嫌そうな顔をわざわざ作る。

「父さんだって中継聞いてるから、わかってますよ」

ナツが答える。

「お前も、社長の息子という、つてから始まった」

「それ、言わないでください、ハルさん。社長の息子っての、嫌なんですよ」

「事実、そうだ。しかし…」

ハルが言葉を濁す。

「しかし?なんです?」

フユがニヤニヤしながら聞く。


「ナツもアキも、シキに欠かせなくなった」


ハルはそれだけ言うと、ぷいとそっぽを向いた。

ナツはぽかんとしている。

フユはこらえきれずに笑い出した。

アキは、目を赤くしたまま、笑った。


「行くぞ」

ハルが先にたって歩き出す。

ハル、ナツ、アキ、フユ。

チーム・シキは、誰が欠けても成り立たない。

そんなチームに成長した。


アキは駆動車を見た。

次こそは、

その思いを胸に、また、歩き出した。

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