これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
車輪の彫られた扉の向こうの世界の物語。
駆動車のレースが終わり、
アキはほうけたように駆動車の中にいた。
コンコンと運転手側の窓が叩かれる。
アキは顔をころりとそちらに向けた。
フユがにっこりと笑っていた。
アキが窓を開ける。
風がふわりと車内に入ってきて、
車内を程よく冷やす。
「お疲れ様」
言われて、アキはようやくレースが終わったことを感じた。
窓を閉じ、エンジンを止めた。
駆動車の鼓動のような音が止まり、
自分の鼓動が聞こえてくる。
アキはゆっくりドアを開けた。
優勝した駆動車の周りは、
もう、お祭りのようになっていた。
ドライバーが、ナビゲーターが、チームメイトが、
そして、それを祝う者が、
この街の住民も、取材者と思われる者も、
みんなが一緒くたになって祝っていた。
アキはそれを遠くから見ていた。
ナツも、フユも、一緒に見ていた。
自分はあそこに立てなかった。
それが無性に悔しかった。
泣いちゃいけない。
アキは、お祭り騒ぎをにらんだ。
ぎりぎりとにらみつけた。
憎くはない。
ただ、悔しくてにらみつけた。
不意に、そんなアキの頭を、誰かがぽんと叩いた。
振り返れば、ハルだ。
「次にあそこにいるのは、俺たちだ」
ハルは不器用に笑った。
「よくやった」
ハルはぐりぐりとアキの頭を、やはり不器用になでた。
アキの視界はぼやけた。
袖でガシガシと視界をぬぐう。
ぬぐってもぬぐっても、視界はぼやけた。
悔しいという感覚を越えて、
感情がとめどなく溢れた。
やがて、お祭り騒ぎは、
優勝者のインタビューになったらしい。
「さて」
フユが切り出す。
「社長のところに謝りにいきますか」
フユが嫌そうな顔をわざわざ作る。
「父さんだって中継聞いてるから、わかってますよ」
ナツが答える。
「お前も、社長の息子という、つてから始まった」
「それ、言わないでください、ハルさん。社長の息子っての、嫌なんですよ」
「事実、そうだ。しかし…」
ハルが言葉を濁す。
「しかし?なんです?」
フユがニヤニヤしながら聞く。
「ナツもアキも、シキに欠かせなくなった」
ハルはそれだけ言うと、ぷいとそっぽを向いた。
ナツはぽかんとしている。
フユはこらえきれずに笑い出した。
アキは、目を赤くしたまま、笑った。
「行くぞ」
ハルが先にたって歩き出す。
ハル、ナツ、アキ、フユ。
チーム・シキは、誰が欠けても成り立たない。
そんなチームに成長した。
アキは駆動車を見た。
次こそは、
その思いを胸に、また、歩き出した。