カメラマンのセンと、ライターのトウは、
合法に使えるゲートをくぐり、
白い都市から、とある町にやってきた。
そこは、寂れた町並みというには、
巨大すぎる建物が多かった。
今でも細々と暮らしているものもいるらしいが、
壊されることなく、巨大な廃墟はそびえたっていた。
「情報どおり」
トウが分析した。
「今回の目当ては、この大きな廃墟」
「何の廃墟なんだ?」
「ホテルらしい」
「らしい?」
センが聞き返す。
「なんだかいろいろあったらしい。ま、日が暮れる前に行こうや」
センとトウは、巨大な廃墟に向かった。
巨大な廃墟は、
異様な風貌をさらしている。
巨大で…時代遅れだ。
廃墟というものは、えてしてそういうものかもしれない。
「さてどこから入るかね」
トウがあたりを見回すと、ちょうどいいところで壁が崩れていた。
そこを、誰かがひょいと越えて行ったのが見えた。
「行きますか」
「ああ」
センは帽子を直し、撮影道具を持つと、崩れた壁を乗り越えた。
「情報では、地下がものすごかったらしい」
「行くか」
「はいな」
短いやり取りをして、センとトウは地下へと向かう。
色あせた看板が、地下への道を教えてくれた。
巨大な廃墟の地下には…
巨大な宴のあとがあった。
静か過ぎる地下。
朽ちた木の船。大きなもの、小さなもの。
ここで宴があったのであろうか。
池になっていたであろう、底は赤い漆がはげている。
植えられた植物はぼうぼうとしている。
日が少しだけさしているほうに向かい、植物は懸命に自己主張している。
すべてが終わってしまった場所。
宴が終わった場所。
「なんや、あんたら」
唐突に声がかかった。
振り返れば、先ほど壁を越えていった人影がいる。
「廃墟カメラマンとライターですよ」
トウが自己紹介をした。
「そっか…わいは酒屋や」
酒屋は、朽ちた木の端っこに座った。
黒い釣鐘マントに、インヤンマークのTシャツ、ジーンズのいでたちだ。
髪は無造作に後ろで縛り、ディバッグを持っている。
「ここの廃墟は、思いだけでもっとる…」
「思いだけ?」
「もうすぐ壊れてしまう。せやから、取材だったら、はよしたほうがええで」
センとトウはうなずきあい、
廃墟の取材にかかった。
「わいがここから思いを取ったら…ここはもう壊れるだけや」
酒屋はさびしそうにつぶやく。
ホテルに残る宴の思いを酒にすること。
それが、酒屋の糧であり、
それが、この宴の始末だ。
財政難に陥り、壊すことすら出来なかったホテルの宴の始末だ。
酒屋はふと、上を見た。
乾ききった桜の花びらが一枚、上から舞い降りてきた。
すべてが終わるこの場所に。
もうすぐ壊れるこの場所に。