目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第270話 始末

カメラマンのセンと、ライターのトウは、

合法に使えるゲートをくぐり、

白い都市から、とある町にやってきた。

そこは、寂れた町並みというには、

巨大すぎる建物が多かった。

今でも細々と暮らしているものもいるらしいが、

壊されることなく、巨大な廃墟はそびえたっていた。


「情報どおり」

トウが分析した。

「今回の目当ては、この大きな廃墟」

「何の廃墟なんだ?」

「ホテルらしい」

「らしい?」

センが聞き返す。

「なんだかいろいろあったらしい。ま、日が暮れる前に行こうや」

センとトウは、巨大な廃墟に向かった。


巨大な廃墟は、

異様な風貌をさらしている。

巨大で…時代遅れだ。

廃墟というものは、えてしてそういうものかもしれない。

「さてどこから入るかね」

トウがあたりを見回すと、ちょうどいいところで壁が崩れていた。

そこを、誰かがひょいと越えて行ったのが見えた。

「行きますか」

「ああ」

センは帽子を直し、撮影道具を持つと、崩れた壁を乗り越えた。


「情報では、地下がものすごかったらしい」

「行くか」

「はいな」

短いやり取りをして、センとトウは地下へと向かう。

色あせた看板が、地下への道を教えてくれた。

巨大な廃墟の地下には…

巨大な宴のあとがあった。


静か過ぎる地下。

朽ちた木の船。大きなもの、小さなもの。

ここで宴があったのであろうか。

池になっていたであろう、底は赤い漆がはげている。

植えられた植物はぼうぼうとしている。

日が少しだけさしているほうに向かい、植物は懸命に自己主張している。

すべてが終わってしまった場所。

宴が終わった場所。


「なんや、あんたら」

唐突に声がかかった。

振り返れば、先ほど壁を越えていった人影がいる。

「廃墟カメラマンとライターですよ」

トウが自己紹介をした。

「そっか…わいは酒屋や」

酒屋は、朽ちた木の端っこに座った。

黒い釣鐘マントに、インヤンマークのTシャツ、ジーンズのいでたちだ。

髪は無造作に後ろで縛り、ディバッグを持っている。

「ここの廃墟は、思いだけでもっとる…」

「思いだけ?」

「もうすぐ壊れてしまう。せやから、取材だったら、はよしたほうがええで」

センとトウはうなずきあい、

廃墟の取材にかかった。


「わいがここから思いを取ったら…ここはもう壊れるだけや」

酒屋はさびしそうにつぶやく。

ホテルに残る宴の思いを酒にすること。

それが、酒屋の糧であり、

それが、この宴の始末だ。

財政難に陥り、壊すことすら出来なかったホテルの宴の始末だ。


酒屋はふと、上を見た。

乾ききった桜の花びらが一枚、上から舞い降りてきた。

すべてが終わるこの場所に。

もうすぐ壊れるこの場所に。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?