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第269話 心配

ヤジマとキタザワ、そしてエリカは、

探偵事務所を後にし、

斜陽街の番外地を歩いた。

キタザワがとある通りを通ろうとする。

すると、頭の上から声がかかった。

「ここから先は落ち物通り」

キタザワをはじめ、3人して頭の上を見る。

すると、通りの入り口に、

スキンヘッドのマネキンが頭と右手を出して壁からはえていた。


「あたしはおしゃべりスキンヘッド。ここから先は落ち物通りよ」

表情豊かにマネキンは話す。

「聞いたことがある。最近落し物をする通りができたとかな」

ヤジマが答える。

マネキンは、わが意を得たりと微笑んだ。

「落としたいものがあるならどうぞ。でも、そんな風には見えないわ」

マネキンはくるりと右手を回した。


「落としたいもの…」

エリカは思いつめた表情をした。

「あたしの身分って落とせるかしら?」

エリカはマネキンに問いかける。

マネキンはちょっとびっくりしたようだが、

「落ちないものはないと思うわ」

と、答えた。


エリカは落ち物通りに入ろうとした。


「待てや」


どこかから、エリカを制止する声が聞こえた。

エリカがきょときょとすると、

「ここだここ」

と、狭い隙間から、鯉ほどの大きさの魚が、

ふよふよと空を飛んできた。

色とりどりの色彩を持った魚だ。

「落とす前に、この魚のシキに話していかないかい、お嬢さん」

シキはきざに決めてみたらしい。

ヤジマはシキを見てうなずき、

「だ、そうだ。聞き手はいっぱいいるよ」

キタザワがうなずき、

「あたしも聞きたいわ」

と、頭の上でマネキンが同意した。


「あたしが落としたいものは…」

「身分を落としたいって言ってたね」

ヤジマが促すと、エリカはうなずいた。

「高貴な身分とやらを落としたいのかい?」

ヤジマが思ったままを告げた。

「あたしは…」

「このお嬢さん、高貴なのかい?」

シキが聞き返す。

「あたしは、姫。とあるお城の姫…」

「それでそれで?聞かせて聞かせて」

マネキンが続きをせがむ。

「あたしは、お父様に結婚相手を勝手に決められて…逃げてきたの」

「結婚相手を、ですか…」

キタザワが、同情したように言葉を選んで話す。

「でも、エリカさん」

さらにキタザワが続ける。

「お城の暮らしは、不愉快なものでしたか?」

エリカははっとする。

ヤジマがエリカの目を見る。

「あんたは篭の鳥暮らしかもしれないけどさ…いなくなると、困る人がいるだろ」

エリカはまっすぐなヤジマの視線に耐え切れなくなり、

目を伏せた。

「お嬢さん、落ち物通りで落としちまうってのは、そんな人も落としちまうってことだ」

シキがヤジマに代わって話す。

「落とすのは簡単だ。けど、得るのはすごい難しいんだ。俺の相棒もそうだった」


「どうする?」

ヤジマは問いかける。

「きっと、お城の人は心配している。あたしはそう思うよ」

ヤジマの言葉に、エリカは顔を上げた。


「帰ります。姫として」

その答えに、

皆が、微笑んだ。

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