ヤジマとキタザワ、そしてエリカは、
探偵事務所を後にし、
斜陽街の番外地を歩いた。
キタザワがとある通りを通ろうとする。
すると、頭の上から声がかかった。
「ここから先は落ち物通り」
キタザワをはじめ、3人して頭の上を見る。
すると、通りの入り口に、
スキンヘッドのマネキンが頭と右手を出して壁からはえていた。
「あたしはおしゃべりスキンヘッド。ここから先は落ち物通りよ」
表情豊かにマネキンは話す。
「聞いたことがある。最近落し物をする通りができたとかな」
ヤジマが答える。
マネキンは、わが意を得たりと微笑んだ。
「落としたいものがあるならどうぞ。でも、そんな風には見えないわ」
マネキンはくるりと右手を回した。
「落としたいもの…」
エリカは思いつめた表情をした。
「あたしの身分って落とせるかしら?」
エリカはマネキンに問いかける。
マネキンはちょっとびっくりしたようだが、
「落ちないものはないと思うわ」
と、答えた。
エリカは落ち物通りに入ろうとした。
「待てや」
どこかから、エリカを制止する声が聞こえた。
エリカがきょときょとすると、
「ここだここ」
と、狭い隙間から、鯉ほどの大きさの魚が、
ふよふよと空を飛んできた。
色とりどりの色彩を持った魚だ。
「落とす前に、この魚のシキに話していかないかい、お嬢さん」
シキはきざに決めてみたらしい。
ヤジマはシキを見てうなずき、
「だ、そうだ。聞き手はいっぱいいるよ」
キタザワがうなずき、
「あたしも聞きたいわ」
と、頭の上でマネキンが同意した。
「あたしが落としたいものは…」
「身分を落としたいって言ってたね」
ヤジマが促すと、エリカはうなずいた。
「高貴な身分とやらを落としたいのかい?」
ヤジマが思ったままを告げた。
「あたしは…」
「このお嬢さん、高貴なのかい?」
シキが聞き返す。
「あたしは、姫。とあるお城の姫…」
「それでそれで?聞かせて聞かせて」
マネキンが続きをせがむ。
「あたしは、お父様に結婚相手を勝手に決められて…逃げてきたの」
「結婚相手を、ですか…」
キタザワが、同情したように言葉を選んで話す。
「でも、エリカさん」
さらにキタザワが続ける。
「お城の暮らしは、不愉快なものでしたか?」
エリカははっとする。
ヤジマがエリカの目を見る。
「あんたは篭の鳥暮らしかもしれないけどさ…いなくなると、困る人がいるだろ」
エリカはまっすぐなヤジマの視線に耐え切れなくなり、
目を伏せた。
「お嬢さん、落ち物通りで落としちまうってのは、そんな人も落としちまうってことだ」
シキがヤジマに代わって話す。
「落とすのは簡単だ。けど、得るのはすごい難しいんだ。俺の相棒もそうだった」
「どうする?」
ヤジマは問いかける。
「きっと、お城の人は心配している。あたしはそう思うよ」
ヤジマの言葉に、エリカは顔を上げた。
「帰ります。姫として」
その答えに、
皆が、微笑んだ。