斜陽街番外地。神屋。
男神と女神は、扉屋から戻ってきた。
しっかり手をつないで。
途中まで、砂屋と一緒に戻ってきた。
砂屋は他に外に出る用件もないので、
そのまま砂屋の店に戻って行ったらしい。
男神と女神が、神屋の扉を開ける。
ガラガラと横に開く古いタイプの扉だ。
「楽しかった」
「うん、楽しかった」
男神と女神が微笑みあう。
「いろんな神様がいた」
「仏様もいたかもしれない」
「楽しかった」
「うん、楽しかった」
男神と女神は、神屋の中に入ってくる。
今までまとっていた編み物を脱ぎ、
いつもの布を着用した。
編み物の服は…いずれまた、どこかへ出かけるときに使うだろうと、
たたんで箱にしまった。
清らかな音を一緒に聞いた編み物。
一緒に男神と女神と歩いた編み物。
暑くても寒くても、男神と女神を包む編み物。
他のどこにもない編み物。
非売品の編み物。
「もう一度一つに」
「もう一度一つに」
男神と女神は、背と腹を合わせた。
女神の胸の部分には向こうが見える穴がある。
そこを男神の腹がふさいでいく。
男神と女神の表情が、泣きそうに満たされていく。
これ以上ないほど満たされる感覚。
多分この二人でなければ、わからない感覚で、
多分、誰にも説明できない感覚だろう。
女神の片目から、涙が一粒だけこぼれた。
男神と女神は再融合した。
「あたたかい」
「うん」
「でも、頼りなくても…」
「うん?」
「あなたの手をつないでいるのも、悪くなかった」
「うん…」
「離れるのは怖かった、でも、この手を離さないと思った」
「うん…」
「ずっと一緒」
「うん、ずっと一緒だ」
女神はうれしそうに微笑んだ。
男神はしっかりと抱きしめた。
女神の指が、不思議な色合いの糸をつむぐ。
男神の指も、不思議な色合いの糸をつむぐ。
「また、編もう」
「ええ」
男神と女神、幸せそうに微笑みあって。
不思議な色合いの糸は、
以前とはまた違った色合いを持っていた。
さらに複雑になったような。
さらに、人を安堵させる色合いになったような。
「変わった」
「うん」
「外に出るのもたまにはいいのかも」
「そうだね」
「また、一緒にどこかへ」
「それまでは、ずっと一緒に」
「一緒に」
一つでありながら一つでなく。
二人でありながら、一つ。
重なっている男神と女神は、
一緒に編み物を編んでいた。