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第268話 再融合

斜陽街番外地。神屋。

男神と女神は、扉屋から戻ってきた。

しっかり手をつないで。


途中まで、砂屋と一緒に戻ってきた。

砂屋は他に外に出る用件もないので、

そのまま砂屋の店に戻って行ったらしい。


男神と女神が、神屋の扉を開ける。

ガラガラと横に開く古いタイプの扉だ。

「楽しかった」

「うん、楽しかった」

男神と女神が微笑みあう。

「いろんな神様がいた」

「仏様もいたかもしれない」

「楽しかった」

「うん、楽しかった」


男神と女神は、神屋の中に入ってくる。

今までまとっていた編み物を脱ぎ、

いつもの布を着用した。

編み物の服は…いずれまた、どこかへ出かけるときに使うだろうと、

たたんで箱にしまった。

清らかな音を一緒に聞いた編み物。

一緒に男神と女神と歩いた編み物。

暑くても寒くても、男神と女神を包む編み物。

他のどこにもない編み物。

非売品の編み物。


「もう一度一つに」

「もう一度一つに」

男神と女神は、背と腹を合わせた。

女神の胸の部分には向こうが見える穴がある。

そこを男神の腹がふさいでいく。

男神と女神の表情が、泣きそうに満たされていく。

これ以上ないほど満たされる感覚。

多分この二人でなければ、わからない感覚で、

多分、誰にも説明できない感覚だろう。


女神の片目から、涙が一粒だけこぼれた。


男神と女神は再融合した。


「あたたかい」

「うん」

「でも、頼りなくても…」

「うん?」

「あなたの手をつないでいるのも、悪くなかった」

「うん…」

「離れるのは怖かった、でも、この手を離さないと思った」

「うん…」

「ずっと一緒」

「うん、ずっと一緒だ」

女神はうれしそうに微笑んだ。

男神はしっかりと抱きしめた。


女神の指が、不思議な色合いの糸をつむぐ。

男神の指も、不思議な色合いの糸をつむぐ。

「また、編もう」

「ええ」

男神と女神、幸せそうに微笑みあって。


不思議な色合いの糸は、

以前とはまた違った色合いを持っていた。

さらに複雑になったような。

さらに、人を安堵させる色合いになったような。

「変わった」

「うん」

「外に出るのもたまにはいいのかも」

「そうだね」

「また、一緒にどこかへ」

「それまでは、ずっと一緒に」

「一緒に」


一つでありながら一つでなく。

二人でありながら、一つ。

重なっている男神と女神は、

一緒に編み物を編んでいた。

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