斜陽街二番街、喫茶店、ピエロット。
さっきまでピエロットのギター弾きは、
ずっとラジオを聞いていた。
どこかの街、
駆動車のレース。
音屋からラジオを買ってきて、
席についてから、ずっと聞いていた。
駆動車のレースの実況中継。
オルゴールの鳴るピエロットでは珍しく、
やかましい実況ではあった。
ギター弾きはそれでも音量を控えめにして、
ずっと、ずっと、応援していた。
ギター弾きが応援していたのは、
シキという名前のチームだ。
他のチームに肩入れをする気はなかった。
ただ、このチームだけを応援したいと思った。
ラジオで伝わる華麗なドライビング。
一種攻撃的とも思える速度。
応援したくなった。
荒削りのそれを応援したくなった。
あるいは、昇りゆく太陽のような感覚。
誰もとめることの出来ない、
確実な勢いのようなもの…
「アキ…」
そう、今までのアキに通じた、何かを、
チーム・シキから感じた。
ドライバーの名前はわからない。
しかしそれは、太陽のようだとギター弾きは思い、
きっとアキという名前だろうと思った。
ラジオは、優勝者のインタビューに切り替わっていた。
『では、あおいさん、あかねさん、かもめさん、このお三方で…』
ヅヅッ…プツリ
ギター弾きはラジオを止めた。
シキは負けてしまった。
勝敗は、どこかでつくものとはいえ、
ひいきにしていたチームが負けるのは、どこかさびしいものがあった。
ピエロットの店内は、
再びオルゴールの音が主になった。
ギター弾きはギターを取り出し、
オルゴールの音にあわせて爪弾いた。
(後悔はないか…)
ギターを爪弾きながら、
シキのドライバーに心で呼びかける。
(ずっと応援していた。ラジオで、ずっと応援していた)
この心が届けば…
何が起こるわけでもないかもしれない。
それでも、応援を感じ取ってくれればいいと、
ギター弾きは思った。
ギター弾きはギターを爪弾く。
その傍らで、沈黙したラジオが、
今まで駆動車の実況をしていたラジオが、
だまってたたずんでいた。
勝敗だけではないことを。
ドライバーには感じ取ってもらいたい。
それは、一種のギター弾きの祈り。
アキという名の太陽に向けた祈り。
ギター弾きにとっての本当のアキは誰だったのか…
もう、ギター弾きも思い出せないかもしれない。
それゆえ、ギター弾きはアキに祈るのかもしれない。
勝敗だけじゃないと。
ラジオの向こうに、祈りをこめて。