斜陽街番外地。八卦池のほとり。
スカ爺が八卦池を覗き込んでいる。
スカ爺は、電脳娘々の血縁に当たる。
中国風の仙人といえば、外見の感覚はつかめるかもしれない。
杖を持ち、
いつも八卦池を覗き込んでいる。
時折、杖で八卦池をかき回す。
アクセスしているのかもしれない。
八卦池は、
周りに、黄色地に黒で八卦が描かれている池だ。
丁度、八卦鏡を思い浮かべていただければいい。
八卦がまわりに描かれている中心に、池がある。
そこを、スカ爺は覗き込んでいる。
八卦池は、電脳の迷子がよく迷い込むらしい。
電波を伝ってくる迷子。
そんな迷子に、スカ爺は行くべき道を教える。
杖で八卦池をかき回し、
行く先を見せているらしい。
八卦池のほとりに、たたずむこと。
スカ爺はそんな毎日を送っている。
以前は、いろんなことがあり、
八卦池にさざなみというか、
ノイズが混じって大変なことがあった。
廃ビルからの歌しかり。
斜陽街に攻め込んでくるものしかり。
様々のことがあった。
それでも八卦池は相変わらず番外地にあり、
番外地の細い路地の向こう、
広場のようになっている八卦池のほとりで、
スカ爺が何かを見ている。
「むむ、負けてしまったか…」
八卦池を覗き込んでいた、
スカ爺がつぶやいた。
音声は聞こえない。
けれど、スカ爺は、何かが負けてしまったのを見たらしい。
「ギター弾きは、さぞ、がっかりするでござろう…」
八卦池の周りには、誰もいない。
独り言らしい。
それでも、スカ爺はギター弾きががっかりすると言った。
おそらく、八卦池を通して、そういうものが届いたのだろう。
「これは酒でござろうか?」
また、スカ爺がつぶやいた。
「シャンジャーではないな…」
スカ爺が杖を八卦池に立て、かき回した。
「おぬしも酒か…ここより出られぬ酒か…」
スカ爺は、なんとなく納得したらしい。
『スカ爺さん』
八卦池からアクセスがあった。
「シャンジャーか」
『アルコールにアクセスしたか?』
「酒の娘を見た」
『やっぱりスカ爺さんだったか』
「何かあったのか?」
『俺も彼女もここから出られない酒…』
シャンジャーは言葉を区切った。
『彼女とも、たまに遊んでやってくれ』
「よかろう」
スカ爺は答えると、
シャンジャーからのアクセスが途切れた。
スカ爺は、また、八卦池のほとりでうとうととし始めた。
様々のことが届く、八卦池のほとりで。