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第265話 電波

斜陽街番外地。八卦池のほとり。

スカ爺が八卦池を覗き込んでいる。


スカ爺は、電脳娘々の血縁に当たる。

中国風の仙人といえば、外見の感覚はつかめるかもしれない。

杖を持ち、

いつも八卦池を覗き込んでいる。

時折、杖で八卦池をかき回す。

アクセスしているのかもしれない。


八卦池は、

周りに、黄色地に黒で八卦が描かれている池だ。

丁度、八卦鏡を思い浮かべていただければいい。

八卦がまわりに描かれている中心に、池がある。

そこを、スカ爺は覗き込んでいる。


八卦池は、電脳の迷子がよく迷い込むらしい。

電波を伝ってくる迷子。

そんな迷子に、スカ爺は行くべき道を教える。

杖で八卦池をかき回し、

行く先を見せているらしい。

八卦池のほとりに、たたずむこと。

スカ爺はそんな毎日を送っている。


以前は、いろんなことがあり、

八卦池にさざなみというか、

ノイズが混じって大変なことがあった。

廃ビルからの歌しかり。

斜陽街に攻め込んでくるものしかり。

様々のことがあった。

それでも八卦池は相変わらず番外地にあり、

番外地の細い路地の向こう、

広場のようになっている八卦池のほとりで、

スカ爺が何かを見ている。


「むむ、負けてしまったか…」

八卦池を覗き込んでいた、

スカ爺がつぶやいた。

音声は聞こえない。

けれど、スカ爺は、何かが負けてしまったのを見たらしい。

「ギター弾きは、さぞ、がっかりするでござろう…」

八卦池の周りには、誰もいない。

独り言らしい。

それでも、スカ爺はギター弾きががっかりすると言った。

おそらく、八卦池を通して、そういうものが届いたのだろう。


「これは酒でござろうか?」

また、スカ爺がつぶやいた。

「シャンジャーではないな…」

スカ爺が杖を八卦池に立て、かき回した。

「おぬしも酒か…ここより出られぬ酒か…」

スカ爺は、なんとなく納得したらしい。


『スカ爺さん』

八卦池からアクセスがあった。

「シャンジャーか」

『アルコールにアクセスしたか?』

「酒の娘を見た」

『やっぱりスカ爺さんだったか』

「何かあったのか?」

『俺も彼女もここから出られない酒…』

シャンジャーは言葉を区切った。

『彼女とも、たまに遊んでやってくれ』

「よかろう」

スカ爺は答えると、

シャンジャーからのアクセスが途切れた。


スカ爺は、また、八卦池のほとりでうとうととし始めた。

様々のことが届く、八卦池のほとりで。

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