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第264話 結果

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

車輪の彫られた扉の向こうの世界の物語。


風を越えて。

己を越えて。


先頭のチームは大通りに出た。

追って、アキとナツの駆動車も大通りに出た。

タイヤが悲鳴を上げている。

結構、無理なアクセルとブレーキを連続させている。

アキはそれでもアクセルを踏んだ。

勝たなければならないと。

ここで勝たなければならないと。


大通りから、

最後のゴールとなる広場まで。

広場を目指しているのはこの二台。

ナツは判断した。

アキにそれを伝えるか、迷ったが、

黙ることにした。

アキは前だけを見ている。

ナツも、前だけを見ることにした。

信じている自分たちの速度。

加速する。

ぐんぐん加速する。

「つかまってろ!ナツ!」

アキがさらにアクセルを踏む。

減速の一切無い、

攻撃的なアキの走り。

恐怖心は二人とも無かった。

ただ、前の駆動車をとらえ、越えること。

越えたかった。

負けたくなかった。

チーム・シキとしてだけでなく。

この駆動車を駆るものとして、

パートナーを裏切りたくない。

そして、己自身を越えたかった。


うっすら応援が耳には入る。

それ以上の駆動車のエンジン音、

タイヤの悲鳴、

排気音、

ぎしぎしとなる駆動車自身の悲鳴。

そして、大きすぎて聞こえない自分自身の鼓動が、

耳に張り付いて、エンジン音と同化している。


風を越えて、

己を越えて、

そして、勝ちたかった。


前の駆動車はどんどん近づいている。

とらえているとアキは感じていた。

(いける…まだ、いける…)

駆動車のナンバーまでわかる。

(まだ…もっと…もっと…)

そして、前の駆動車の横まで…

(越えられる…っ!)


その瞬間。

フラッグは振られた。


相手の駆動車が減速した。

減速音が、ようやくアキの耳に届いた。

拡声器の劣化した音声が、

シキではない車を優勝といっていた。


アキは広場の端に、

ゆっくり駆動車を進めると、

やがて、とめた。

恐怖心を越え、

鼓動が大きく聞こえる。


アキは、エンジンを止めた。

負けた…のだ。

それが、彼らの結果だった。


アキは大きく息を吐いた。

鼓動はまだ大きい。

悔しいとかそれ以前に、何かを出し切った気はした。

「負けましたね」

ナツが、そう言い、大きくため息をついた。

「それが結果だ」

まだどこか、アキは受け入れられないが…

それが結果と、どこかわかっていた。


風が吹く。

その風を越えられただろうかとアキは思った。

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