これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
車輪の彫られた扉の向こうの世界の物語。
風を越えて。
己を越えて。
先頭のチームは大通りに出た。
追って、アキとナツの駆動車も大通りに出た。
タイヤが悲鳴を上げている。
結構、無理なアクセルとブレーキを連続させている。
アキはそれでもアクセルを踏んだ。
勝たなければならないと。
ここで勝たなければならないと。
大通りから、
最後のゴールとなる広場まで。
広場を目指しているのはこの二台。
ナツは判断した。
アキにそれを伝えるか、迷ったが、
黙ることにした。
アキは前だけを見ている。
ナツも、前だけを見ることにした。
信じている自分たちの速度。
加速する。
ぐんぐん加速する。
「つかまってろ!ナツ!」
アキがさらにアクセルを踏む。
減速の一切無い、
攻撃的なアキの走り。
恐怖心は二人とも無かった。
ただ、前の駆動車をとらえ、越えること。
越えたかった。
負けたくなかった。
チーム・シキとしてだけでなく。
この駆動車を駆るものとして、
パートナーを裏切りたくない。
そして、己自身を越えたかった。
うっすら応援が耳には入る。
それ以上の駆動車のエンジン音、
タイヤの悲鳴、
排気音、
ぎしぎしとなる駆動車自身の悲鳴。
そして、大きすぎて聞こえない自分自身の鼓動が、
耳に張り付いて、エンジン音と同化している。
風を越えて、
己を越えて、
そして、勝ちたかった。
前の駆動車はどんどん近づいている。
とらえているとアキは感じていた。
(いける…まだ、いける…)
駆動車のナンバーまでわかる。
(まだ…もっと…もっと…)
そして、前の駆動車の横まで…
(越えられる…っ!)
その瞬間。
フラッグは振られた。
相手の駆動車が減速した。
減速音が、ようやくアキの耳に届いた。
拡声器の劣化した音声が、
シキではない車を優勝といっていた。
アキは広場の端に、
ゆっくり駆動車を進めると、
やがて、とめた。
恐怖心を越え、
鼓動が大きく聞こえる。
アキは、エンジンを止めた。
負けた…のだ。
それが、彼らの結果だった。
アキは大きく息を吐いた。
鼓動はまだ大きい。
悔しいとかそれ以前に、何かを出し切った気はした。
「負けましたね」
ナツが、そう言い、大きくため息をついた。
「それが結果だ」
まだどこか、アキは受け入れられないが…
それが結果と、どこかわかっていた。
風が吹く。
その風を越えられただろうかとアキは思った。