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第263話 目的

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

重そうな鉄の扉の向こうの世界の物語。


大型飛行機の「ワイバーン」が完成した。

皆は身体を洗い、温かい食事をとった。

4人の騒がしい食卓。

微笑みのある食卓。

暖かい食卓だ。


「それで…」

団欒の中、ギアビスが切り出す。

「ワイバーンを作った理由を、話しておきたいんだ」

皆が黙った。

ギアビスは考え、話し出す。

「ワイバーンで、本当の世界の果てを見てきてほしいんだ」


「本当の世界の果て…」

パックが繰り返す。

パックは世界の果てに住もうと考えていた。

ここが世界の果てでないのなら…

「そう、パックさん、ここは本当の世界の果てじゃない…」

「じゃあ、どこなんだ?」

「わからないけれど、理論上は世界の果てじゃないんだ」

「そうか…」

と言い、パックは黙った。


「ワイバーンで世界の果てへ…」

ダットラットが、ポツリともらす。

「そう、世界の果てに行って、いろんな物を見てきてもらいたいんだ」

ギアビスが目的を告げる。

「それは軍とは関係ないですよね」

「全然関係ない。むしろ…」

「むしろ?」

「むしろ個人的なことだ。歴代のギアビスの記録に、さらに今のギアビスの記録を描きたい…」

「さらに、ですか」

「そう、新しいギアビスの情報。それを得るためにワイバーンを作ったんだ」


小さな家の外、

草原の中に大型飛行機がある。


「あの飛行機ならば、本当の世界の果てまで飛べるはず」

ギアビスは、確信を持っていた。


「あの…」

ダットラットが弱弱しく話し出す。

「あの…世界の果てへの操縦、僕にやらせてもらえませんか?」

ギアビスはうなずいた。

「ただ、一人きりの旅になるかもしれないよ」

「一人きりの?」

「ギアビスの遺産を守るものも残しておきたいしね…だから」

ギアビスが言うと、パックが顔を上げた。

パックが静かに語る。

「わしもついていく。操縦士と職人がいれば、どうにかなろう」

「ん…」

ギアビスは、うなずいた。

そして、ギアビスは視線でレオンを促した。

「俺は、ここで、ギアビスの遺産を守る。それよりギアビスは?」

「僕もここでワイバーンが帰ってくるのを待つよ」


旅に出る二人と、残る二人が決まった。


草原の中、小さな家と、大型飛行機が鎮座している。

「家族が増えてもいいよ。また、騒がしく出来る」

ギアビスは草原を見たまま、話す。

がらくたの塊の大型飛行機。ワイバーン。

それは、世界の果てを目指すものとなった。

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