これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
鈍い色の扉の向こうの世界の物語。
ソウとトオルは工場に入っていく。
入り口でスキャンを受けたが、
パスをする。
一応職業柄、違法なものは身につけていない。
そして扉が開くと、
ソウは手首のデータベース端末から、しゅっとコードを抜き、
工場の端末につなぐ。
工場の構造、食肉クローンの過程が頭の中にダウンロードされる。
「何かわかりました?」
「可能性だけど、DDより複雑なものが、クローンの中に混ざったみたいね」
「みたい?」
「この工場自体が何かを隠してるわね。DDをはじめとしてね。さっきの売人のアクセスも隠されてる」
「たかが食肉クローンじゃないですか…」
「おかしいのよ、落とせる情報が形式ばってて…情報も妙に古いし…とにかく自分で感じるしかないわね」
ソウが走り出す。
トオルがあわてて追う。
「どこ行くんですか!」
「クローンの工程を最初から追うわ。阻止できるなら阻止して、ちゃんと情報を手に入れたいから」
「DDのですか?」
「あるいは、DDを流す目的、それも。遅れないで!」
トオルは念のために銃を抜くと、
走る機械体のソウについて走っていった。
クローン工程を最初から追う。
工場の中を、幾つもの水槽が立ち並んでいる感じだ。
その中に幾つもの肉の塊が浮かんでいる。
肉の塊は水槽で処理を受けると、
管を通って、次の工程の水槽へと移される。
ソウとトオルはクローンの工程を最初からたどっていった。
トオルにはどれもこれも同じ肉の塊に見えた。
ソウが水槽の端末に手首からコードをつないでアクセスする。
「…やっぱり」
「やっぱり?」
「ここ、以前にもDDのアクセスがあるわ。クローンに情報が混じってる」
「全部の情報を一度に落とせないんですか?」
「ひとつひとつが独立して、なおかつ他の情報は隠している…ハッキングは足がつくようになっている…そこだけ妙によくできてるわ」
「ひとつひとつ見るしかないわけですか」
「次、行くわよ…この分だと、DD混じりのクローンは出来上がっているかもしれないけどね…」
ソウとトオルは工程を見ていく。
相変わらずトオルには、ただの肉の塊に見えた。