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第172話 郷愁

満たされない男、シロタロウは斜陽街を歩いていた。

シロタロウは思う。

来たことがないはずなのに、

何でこんなに懐かしいのだろうと。

実は来たことがあるのかもしれない。

そんなことも思った。


シロタロウの記憶には、斜陽街はない。

それ以前に、いろいろと満たされていない。

記憶もなくなったままだ。

シキという魚は、見つかると言った。

あるいは、ここがふるさとならば、

記憶の奥の奥あたりに、何かあるかもしれないが、

記憶はないし、多分ここがふるさとでもない。

白い服のシロタロウは、明らかにどこかからの異邦人だ。


何かをするために斜陽街に来た。

それが何なのかはわからない。

それでも探そうとしてみる。

斜陽街に来た理由、懐かしく思う理由、そして記憶。


雑然とした路地や、あまり広くない大通りを歩く。

シャッターが下りている店舗もある。

営業している店舗もある。

猫がいたり、ごみを踏みつけたり、色あせた段ボール箱がつんであったり、

配線がむき出しになっていたり、水道管も壁に沿ってむき出していたり、

シロタロウは斜陽街のそんなところも見る。


(追い出されたら、ここに来るかな)


シロタロウはふっと考え、

混乱をした。

追い出されたらここに?

どこから追い出されたら?なぜ追い出される?


『秩序を…!』


頭の中で声がする。

秩序を…多分守ろうとしている。

白い服の人間が、そう言っている。

シロタロウは思い出したくなかった。

そんな記憶ならいらなかった。


シロタロウはぶんぶんと頭を振る。

記憶の端っこから、

白い都市が思い出される。

白い都市から追い出された、雑然としたもの…


(そうか…懐かしいのはそれなんだ…)


シロタロウは雑然とした斜陽街に、あの都市から追い出されたものを探した。

きっと、あの都市の隅っこで営業していた、おじいさんたちもいると信じて。

あるいは、それが心のふるさとと信じて。

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