満たされない男、シロタロウは斜陽街を歩いていた。
シロタロウは思う。
来たことがないはずなのに、
何でこんなに懐かしいのだろうと。
実は来たことがあるのかもしれない。
そんなことも思った。
シロタロウの記憶には、斜陽街はない。
それ以前に、いろいろと満たされていない。
記憶もなくなったままだ。
シキという魚は、見つかると言った。
あるいは、ここがふるさとならば、
記憶の奥の奥あたりに、何かあるかもしれないが、
記憶はないし、多分ここがふるさとでもない。
白い服のシロタロウは、明らかにどこかからの異邦人だ。
何かをするために斜陽街に来た。
それが何なのかはわからない。
それでも探そうとしてみる。
斜陽街に来た理由、懐かしく思う理由、そして記憶。
雑然とした路地や、あまり広くない大通りを歩く。
シャッターが下りている店舗もある。
営業している店舗もある。
猫がいたり、ごみを踏みつけたり、色あせた段ボール箱がつんであったり、
配線がむき出しになっていたり、水道管も壁に沿ってむき出していたり、
シロタロウは斜陽街のそんなところも見る。
(追い出されたら、ここに来るかな)
シロタロウはふっと考え、
混乱をした。
追い出されたらここに?
どこから追い出されたら?なぜ追い出される?
『秩序を…!』
頭の中で声がする。
秩序を…多分守ろうとしている。
白い服の人間が、そう言っている。
シロタロウは思い出したくなかった。
そんな記憶ならいらなかった。
シロタロウはぶんぶんと頭を振る。
記憶の端っこから、
白い都市が思い出される。
白い都市から追い出された、雑然としたもの…
(そうか…懐かしいのはそれなんだ…)
シロタロウは雑然とした斜陽街に、あの都市から追い出されたものを探した。
きっと、あの都市の隅っこで営業していた、おじいさんたちもいると信じて。
あるいは、それが心のふるさとと信じて。