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第170話 誘導

二番街の喫茶店、ピエロットの、ギター弾きの席に、

向かうようにして人形師が来ていた。


「それで、アキともう一人は、おかしいって思うんだ」

ピエロットのギター弾きは、珍しくギターを弾かずに、

人形師の持ってきた人形で、

アキともう一人の、人形劇をしている。


ちょっと前まで、人形師はこの喫茶店で軽食を取っていた。

ギター弾きが人形を貸してくれと頼むので、

さっきから奇妙な人形劇が始まっているところだ。

アキという名前は、

ギター弾きにとって特別であるらしい。

斜陽街の住人なら、なんとなく知っていることだ。


「もう一人に名前は?」

人形師がたずねる。

「んー、ナツでいいかな。それで、アキとナツはおかしいって思って…」

アキ人形とナツ人形が、同じ方向に逃げる。

コーヒーカップの陰に隠れた。

「このピエロから逃げるんだ」

「そのピエロは?」

「悪いピエロってことになってる」

アキ人形とナツ人形が、

人形師の食べ終わった軽食の食器の陰に隠れながら逃げる。

悪いピエロから逃げる。


「このアキは強いアキだから、反撃の機会があれば反撃する」

アキ人形にマドラーを持たせる。

「ナツは?」

「ナツは…そうだな、遠距離の攻撃ができるんだ」

パンパンと、ナツ人形が攻撃したらしい。

「でも、悪いピエロは強いんだ。アキとナツを追い回す」


テーブルの上はレストランだと、人形劇を始めるとき、ギター弾きは言った。

レストランで悪いピエロに追い回されるらしい。

「俺はアキを誘導する。ナツを守りつつ、悪いピエロから逃げ、なおかつ反撃できるように誘導する」

アキ人形が命を持ったように動く。

ギター弾きが動かしているのだが、

人形師は、アキという女がレストランでがんばっているように見えた。


「それで、どうなるんです?」

「それでな…アキは…」


ギター弾きはまたアキを誘導する。

ナツを守りつつ、ピエロから逃げて、

テーブルの上を奮闘する。


人形師は、どこかでこんなことがあるのではないかと思い、人形劇を楽しんだ。

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