二番街の喫茶店、ピエロットの、ギター弾きの席に、
向かうようにして人形師が来ていた。
「それで、アキともう一人は、おかしいって思うんだ」
ピエロットのギター弾きは、珍しくギターを弾かずに、
人形師の持ってきた人形で、
アキともう一人の、人形劇をしている。
ちょっと前まで、人形師はこの喫茶店で軽食を取っていた。
ギター弾きが人形を貸してくれと頼むので、
さっきから奇妙な人形劇が始まっているところだ。
アキという名前は、
ギター弾きにとって特別であるらしい。
斜陽街の住人なら、なんとなく知っていることだ。
「もう一人に名前は?」
人形師がたずねる。
「んー、ナツでいいかな。それで、アキとナツはおかしいって思って…」
アキ人形とナツ人形が、同じ方向に逃げる。
コーヒーカップの陰に隠れた。
「このピエロから逃げるんだ」
「そのピエロは?」
「悪いピエロってことになってる」
アキ人形とナツ人形が、
人形師の食べ終わった軽食の食器の陰に隠れながら逃げる。
悪いピエロから逃げる。
「このアキは強いアキだから、反撃の機会があれば反撃する」
アキ人形にマドラーを持たせる。
「ナツは?」
「ナツは…そうだな、遠距離の攻撃ができるんだ」
パンパンと、ナツ人形が攻撃したらしい。
「でも、悪いピエロは強いんだ。アキとナツを追い回す」
テーブルの上はレストランだと、人形劇を始めるとき、ギター弾きは言った。
レストランで悪いピエロに追い回されるらしい。
「俺はアキを誘導する。ナツを守りつつ、悪いピエロから逃げ、なおかつ反撃できるように誘導する」
アキ人形が命を持ったように動く。
ギター弾きが動かしているのだが、
人形師は、アキという女がレストランでがんばっているように見えた。
「それで、どうなるんです?」
「それでな…アキは…」
ギター弾きはまたアキを誘導する。
ナツを守りつつ、ピエロから逃げて、
テーブルの上を奮闘する。
人形師は、どこかでこんなことがあるのではないかと思い、人形劇を楽しんだ。