今日も今日とて、ヤジキタ宅急便屋は営業中。
今回はキタザワが探偵事務所に届け物に行くことになった。
キタザワは斜陽街の小さな路地も覚えようとがんばっている。
近道になるならそれに越したことはないからだ。
「ええと…この感じが確かなら…あ、探偵事務所。この路地であってたんだな」
大きな荷物を持ちながら、
キタザワはなんだか、うきうきしながら探偵事務所に向かった。
そこに、敵意の気配。
キタザワは振り向く。
何もない。
斜陽街の街並みがたたずんでいるだけだ。
「ヤジマさんなら、わかるんだろうけどな…」
キタザワはちょっと鈍い自分が嫌になった。
探偵事務所の呼び鈴を鳴らす。
「毎度ありがとうございまーす。ヤジキタ宅急便屋でーす」
探偵事務所の奥から走る足音がする。
そして、探偵の助手が顔を出す。
「あ、宅急便屋さん」
「どうも、ちょっと大きな荷物ですので、俺が運びますね」
キタザワは、よいしょと中に入る。
「ええと、そこのスペース作ってあるところに…」
「はい、そこですね…よいしょっと」
キタザワは荷物を置く。
「ありがとうございます」
「いいえ、これが仕事ですし」
「お茶でも飲んでいきますか?」
「いえいえ、店にヤジマさんを待たせてますし」
帰ろうとするキタザワは、探偵事務所の主が、一言もしゃべらないことに気がついた。
事務所の一角を見ながら、にらんでいる。
「ずっとああなんですよ」
助手はそう言う。
キタザワは、なんだかわかる気がした。
ヤジマさんと同じように、わかる人なんだと感じた。
そうでなくても、斜陽街の探偵さんは勘がいいと聞く。
探偵は、卓上にあったボールペンを投げる。
ボールペンは一直線に部屋の隅に突き刺さり、
バチッと音を立てた。
「嫌な気配の主か…」
探偵が部屋の隅から保護色で隠された機械を取り出す。
「あ、前にヤジマさんが…」
「ああ、あいつもどこかでこいつに気がついたのか?」
「ヤジマさん鋭いですから…」
「だろうな…」
探偵は機械を壊した。
「最近斜陽街で変な気配を感じる」
「そうですね…」
「勘が、嫌な予感を伝えてくる…外れてほしいと思っているよ」
探偵はそう言うと、助手の入れた茶を飲んだ。
キタザワはヤジマを心配し、
店に戻ることにした。