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第164話 船

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

黒い扉の向こうの世界の物語。


水路の多い町では船は必需品だ。

そんな水路の多いこの町で、

町外れに船が流れ着いた。

白い船だ。


幼い恋人達は白い船を見に来た。

町の者もその船を見に来た。

損傷は少ない。

しかし、誰も乗っていない。

専門の者が調べにあたった。

結果、直した痕跡があり、

その上、航海日誌には「この船は何度でもよみがえる」と、あった。


「よみがえらせよう!」

誰ともなくそうなった。

「よみがえらせて、俺たちの町の一員にしようじゃないか」

船は何にも言わない。

意思もない。

それでも、幼い恋人達が見る限り、なんだかうれしそうではあった。


流れ着いた船は、造船所に運ばれる。

そして、毎日修理に当たられる。

白い船は見る見る新品同様の船になっていった。


やがて、白い船はちょっとした客船としてよみがえった。

水路の多い町でも活躍できそうだったが、

少し遠くを回ってみようということになった。

幼い恋人達は、それだけのチケットを買うことはできず、

出航式にやってくるのが精一杯だった。


いろんな人が白い船に乗っていく。

幼い恋人達はそれを見守った。

そんな二人の頭をなでていった人がいた。

黒いスーツに黒いサングラス。

背はあまり高くなく、髪は短い。

腰の辺りに黒いボウガンを下げている。


「君たちの代わりにいろいろ見てくるよ」

「お兄さん誰?」

「この町にちょっと里帰りで来ているんだ」

「ふぅん…」

「ああ、そろそろ出航だね」


黒ずくめの男はそういうと、白い船に乗っていった。


「あの人がいろいろ見てきてくれるって」

「お話楽しみだね」


幼い恋人達は、出て行く白い船にずっと手を振っていた。

黒ずくめの男が手を振りかえしていた。

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