これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
鈍い色の扉の向こうの世界の物語。
ソウとトオルは旧市街を走る。
『ドライブ・ドライブ』こと、DDの売人を追って。
「あの売人、どのくらいのランクなんですか?」
走りながらトオルが問えば、
「中間あたりかしら。下っ端と元締めの」
「元締め出てきませんかね…」
「それは無理でしょ」
「やっぱり」
売人は旧市街の、もっと寂れたところを駆けていく。
コンクリートが闇の中に不気味にそびえたち、
中からはごうんごうんと音が響いている。
「工場地帯に向かってますね」
「妙な予感がするわ…」
ソウは手首の小型データベースで検索をする。
視界が売人を追うだけのものから、
売人の向かう先を予測したものに変える。
売人を視界にとらえつつ、工場地帯の地図も頭の中に出ている感じだ。
「まっすぐ…向かってるみたい」
「まっすぐ?」
「あの売人もDDジャンキーで操り人形ね。この先の工場にまっすぐ向かってるわ」
「何の工場なんです?」
「合法クローン工場らしいわ…」
「合法ですか?」
「食肉クローン」
「ああ」
トオルは納得する。
食肉や絶滅危惧動物に関しては、クローンが許されているのだ。
「でも、逃げ込む先がそれなら、食肉クローンは隠れ蓑かも」
「追いましょう!」
やがて、売人は大きな工場の前にやってくる。
そして、工場の入り口の端っこからコードを手首につなげると、
がくりと倒れた。
ソウとトオルが追いついたのは、そのあとだ。
「おい!起きろ!」
トオルが売人をゆすってみる。
「無駄よ。そいつにはもう意識どころか魂もないわ」
「じゃあどうしてさっきまで…」
「すべてをDDにゆだねて、すべてを操られていたのよ。そして、ここから何かを流し込んだはず」
ソウは工場入り口のコードを手首につなぐ。
「工場の中に、DDに似たものが流し込まれた形跡があるわ」
「似たもの?」
「DDよりなんだか複雑ね…」
「とにかく、工場の中を見ないことには」
ソウは工場のセキュリティに認証を済ませ、
トオルは売人を管轄に通報した。
そして、二人は工場に入っていった。