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第163話 工場

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

鈍い色の扉の向こうの世界の物語。


ソウとトオルは旧市街を走る。

『ドライブ・ドライブ』こと、DDの売人を追って。

「あの売人、どのくらいのランクなんですか?」

走りながらトオルが問えば、

「中間あたりかしら。下っ端と元締めの」

「元締め出てきませんかね…」

「それは無理でしょ」

「やっぱり」


売人は旧市街の、もっと寂れたところを駆けていく。

コンクリートが闇の中に不気味にそびえたち、

中からはごうんごうんと音が響いている。

「工場地帯に向かってますね」

「妙な予感がするわ…」

ソウは手首の小型データベースで検索をする。

視界が売人を追うだけのものから、

売人の向かう先を予測したものに変える。

売人を視界にとらえつつ、工場地帯の地図も頭の中に出ている感じだ。

「まっすぐ…向かってるみたい」

「まっすぐ?」

「あの売人もDDジャンキーで操り人形ね。この先の工場にまっすぐ向かってるわ」

「何の工場なんです?」

「合法クローン工場らしいわ…」

「合法ですか?」

「食肉クローン」

「ああ」

トオルは納得する。

食肉や絶滅危惧動物に関しては、クローンが許されているのだ。

「でも、逃げ込む先がそれなら、食肉クローンは隠れ蓑かも」

「追いましょう!」


やがて、売人は大きな工場の前にやってくる。

そして、工場の入り口の端っこからコードを手首につなげると、

がくりと倒れた。


ソウとトオルが追いついたのは、そのあとだ。

「おい!起きろ!」

トオルが売人をゆすってみる。

「無駄よ。そいつにはもう意識どころか魂もないわ」

「じゃあどうしてさっきまで…」

「すべてをDDにゆだねて、すべてを操られていたのよ。そして、ここから何かを流し込んだはず」

ソウは工場入り口のコードを手首につなぐ。

「工場の中に、DDに似たものが流し込まれた形跡があるわ」

「似たもの?」

「DDよりなんだか複雑ね…」

「とにかく、工場の中を見ないことには」


ソウは工場のセキュリティに認証を済ませ、

トオルは売人を管轄に通報した。


そして、二人は工場に入っていった。

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