白い服を着た、満たされない男は街をさまよう。
あてはない。
どうすれば満たされるかもわからないし、
まず、記憶がない。
ふらふらと歩いていると、
腹の辺りに何かがぶつかった。
「ぼーっとしてんな!危ないだろ!」
腹の辺りに当たったのは、魚だった。
空を飛んでいて、大きさは鯉くらい。
角度によっていろんな色に見える。
「なんだ…お前もなんか空っぽだな」
魚は一目で看破した。
男は驚いたが、
「なぁに、俺も以前は空っぽだったし、空っぽの相棒がいたのさ」
魚が笑う。
「俺はシキってんだ」
男は名乗ろうにも、名前が思い出せなかった。
その旨をシキに告げると、
「んじゃ、俺が名前を考えてやろう。んー…」
シキが男の周りをふよふよと飛ぶ。
「よしっ、お前はシロタロウだ!」
妙な名前に男はぽかんとし、
そのあと笑い出した。
「んだよ、変な名前か?服が真っ白だからシロタロウ。悪くないと思うんだけどなぁ」
男…シロタロウは、その名前が気に入った旨を告げる。
シキは満足そうに笑った。
シロタロウは記憶がない。
シキにそのあたりのことを話すと、
「斜陽街にはいろいろあるものさ。俺のこの色も斜陽街で手に入れたものだからな」
満たされていないシロタロウに、シキは続ける。
「俺の昔の相棒も、斜陽街で満たされた。あんたを満たしてくれるのも斜陽街にあると思う」
シキが遠くを見るような目をした。
相棒とやらはどこに行ったのだろう。
そのことを話そうとしたが、なんだかはばかられた。
「相棒は生まれたのさ。そして、いつかまた斜陽街を一緒に歩くんだ」
シキは謎かけのように返した。
シロタロウはよくわからなかったが、
シキは相棒を信じているらしい。
「また出逢える。斜陽街はそういうところさ」
シロタロウはまた歩き出そうと思った。
あてはないが、歩けばきっと何かがある。
シキもその辺を読み取ったようだ。
「気をつけてな、シロタロウ」
と、シキは飛んでいった。
シロタロウはまた放浪した。