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第162話 放浪

白い服を着た、満たされない男は街をさまよう。

あてはない。

どうすれば満たされるかもわからないし、

まず、記憶がない。


ふらふらと歩いていると、

腹の辺りに何かがぶつかった。

「ぼーっとしてんな!危ないだろ!」

腹の辺りに当たったのは、魚だった。

空を飛んでいて、大きさは鯉くらい。

角度によっていろんな色に見える。

「なんだ…お前もなんか空っぽだな」

魚は一目で看破した。

男は驚いたが、

「なぁに、俺も以前は空っぽだったし、空っぽの相棒がいたのさ」

魚が笑う。

「俺はシキってんだ」

男は名乗ろうにも、名前が思い出せなかった。

その旨をシキに告げると、

「んじゃ、俺が名前を考えてやろう。んー…」

シキが男の周りをふよふよと飛ぶ。

「よしっ、お前はシロタロウだ!」

妙な名前に男はぽかんとし、

そのあと笑い出した。

「んだよ、変な名前か?服が真っ白だからシロタロウ。悪くないと思うんだけどなぁ」

男…シロタロウは、その名前が気に入った旨を告げる。

シキは満足そうに笑った。


シロタロウは記憶がない。

シキにそのあたりのことを話すと、

「斜陽街にはいろいろあるものさ。俺のこの色も斜陽街で手に入れたものだからな」

満たされていないシロタロウに、シキは続ける。

「俺の昔の相棒も、斜陽街で満たされた。あんたを満たしてくれるのも斜陽街にあると思う」

シキが遠くを見るような目をした。

相棒とやらはどこに行ったのだろう。

そのことを話そうとしたが、なんだかはばかられた。

「相棒は生まれたのさ。そして、いつかまた斜陽街を一緒に歩くんだ」

シキは謎かけのように返した。

シロタロウはよくわからなかったが、

シキは相棒を信じているらしい。

「また出逢える。斜陽街はそういうところさ」


シロタロウはまた歩き出そうと思った。

あてはないが、歩けばきっと何かがある。

シキもその辺を読み取ったようだ。

「気をつけてな、シロタロウ」

と、シキは飛んでいった。

シロタロウはまた放浪した。

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