斜陽街一番街の音屋。
音屋の主人は、店内をうねっている音の波に揺られている。
ここは音を扱う店。
音に関するものならば、
店の奥からどこからともなく探し出してくる。
ただし、音以外のものが媒体に入ると、
音屋がそれを受け付けなくなるらしい。
たとえば夜羽の妄想テープ。
たとえば電脳娘々の邪気の入ったCD-R。
そんなところだ。
しかしながら、音屋にも音だけが入ってくるわけでなく、
イメージが入ってくることもある。
音屋がとらえるものだが、
音の波の中に、イメージが揺らぐことがある。
音屋はそんなイメージをちゃんと排除して、
来る人にちゃんと、音、あるいは音関連を、提供するようにしている。
そんな音屋に、妙な音が入った。
雑音などは聞きなれているが、
意味を持った会話のようだった。
音屋の主人は音の波に揺られることを一時中断し、
妙な音に集中する。
眼鏡の奥で、目をしぱしぱさせる。
「斜陽街は…危険な…」
「監視対象に…」
「制圧…場合によっては制圧…」
音屋は目を閉じて、その雑音がつれてきたイメージも呼び出す。
音屋は本来この行為が好きではない。
しかし、何か嫌な予感がしていた。
イメージはこう伝えてきた。
白い服を着た人間が、無線をしている。
性別すらわからない。
ただ、白い。
音はこの無線の音声らしい。
斜陽街は危険な場所であると、
監視し、場合によっては制圧すべきと、
イメージと音はそう伝えてきた。
音屋は目を開け、眼鏡の奥で目をしぱしぱさせる。
そして、音屋に入り込んだイメージを追い出し、
とりあえず、夜羽に伝えるべく、店を空けた。
妄想と言われればそれまでかもしれないが、
あるいは何かの前兆かもしれないと思った。
音の波の中で、
無線は「斜陽街…危険」
そう、伝えていた。