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第161話 無線

斜陽街一番街の音屋。

音屋の主人は、店内をうねっている音の波に揺られている。

ここは音を扱う店。

音に関するものならば、

店の奥からどこからともなく探し出してくる。

ただし、音以外のものが媒体に入ると、

音屋がそれを受け付けなくなるらしい。


たとえば夜羽の妄想テープ。

たとえば電脳娘々の邪気の入ったCD-R。

そんなところだ。


しかしながら、音屋にも音だけが入ってくるわけでなく、

イメージが入ってくることもある。

音屋がとらえるものだが、

音の波の中に、イメージが揺らぐことがある。

音屋はそんなイメージをちゃんと排除して、

来る人にちゃんと、音、あるいは音関連を、提供するようにしている。


そんな音屋に、妙な音が入った。

雑音などは聞きなれているが、

意味を持った会話のようだった。

音屋の主人は音の波に揺られることを一時中断し、

妙な音に集中する。

眼鏡の奥で、目をしぱしぱさせる。


「斜陽街は…危険な…」

「監視対象に…」

「制圧…場合によっては制圧…」


音屋は目を閉じて、その雑音がつれてきたイメージも呼び出す。

音屋は本来この行為が好きではない。

しかし、何か嫌な予感がしていた。


イメージはこう伝えてきた。

白い服を着た人間が、無線をしている。

性別すらわからない。

ただ、白い。

音はこの無線の音声らしい。

斜陽街は危険な場所であると、

監視し、場合によっては制圧すべきと、

イメージと音はそう伝えてきた。


音屋は目を開け、眼鏡の奥で目をしぱしぱさせる。

そして、音屋に入り込んだイメージを追い出し、

とりあえず、夜羽に伝えるべく、店を空けた。

妄想と言われればそれまでかもしれないが、

あるいは何かの前兆かもしれないと思った。


音の波の中で、

無線は「斜陽街…危険」

そう、伝えていた。

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