斜陽街二番街に、シャッターが下りたままの店舗がある。
そこは元はペットショップだった。
いろんな噂が立ち上ったと聞いている。
猫屋敷の女主人は、
そのペットショップ跡地の前で立ち止まった。
噂いわく、怪しげな香で脳に理想のペットを手に入れたという記憶を植えつけ、その脳を収集する…
噂いわく、世界と一体化するペットを売りつけた…
猫屋敷の女主人が知っているのはそんなところだ。
もっと何かしているのかもしれない。
にゃあと足元の飼い猫が鳴いた。
猫屋敷の女主人は、今、洗い屋に行く途中だった。
いつもは猫屋敷の女主人が猫たちを洗っているのだが、
たまには、本職が洗うことの洗い屋に連れて行っている。
猫達も、人懐っこい洗い屋のお姉さんになついているようだ。
「ごめんください」
「はーい!あ、猫屋敷の…」
「みんな連れてきちゃったんですけど」
「ひぃふぅ…これは洗い甲斐がありそうです」
洗い屋は腕まくりすると、
「最初の猫ちゃんは?」
と言う。
一匹の猫が前に出た。
「相変わらず、しつけがなってますね」
「今回の順番もちゃんと決めてきましたから」
猫は誇らしげに、にゃあと鳴く。
「ああ、そういえば…ペットショップがあったんですよね…あそこ」
「猫屋敷のお姉さんは知らないんでしたっけ?」
「噂だけなら…」
「それじゃ、この猫ちゃんたちはどこから?」
「集まってきちゃうんです。むやみに繁殖しないんですけどね」
「ふぅん…あ、ここがかゆいでしょー」
洗い屋がこしょこしょとすると、猫は気持ちよさそうにごろごろと鳴いた。
他の猫は、店内を荒らすことなく、それでも気ままに待っていた。
「ペットって何なんでしょうね…」
「んー…動物だけど家族?人によっては家族以下?」
「このこ達は家族みたいなものですけどね…」
「あのペットショップはそうじゃなかったと聞きます…はい、流しますよー」
猫の泡が流される。
そして、丁寧に乾かされ、
「次の猫ちゃんは?」
「はい、行ってらっしゃい」
次の猫が前に出る。
洗い屋と猫屋敷の女主人との会話は、洗う猫がいなくなるまで続いた。