(嫌な気配だ…)
ヤジマはそう思った。
今回の届け物は、斜陽街から斜陽街へ。
少し重いものだから、キタザワも一緒に運んでいる。
まぁ、それが仕事といえば仕事だ。
それでも、何かを見張っているような…気配というか視線というか…
以前強盗をしていたヤジマだから…もう、足は洗ったが…
以前が以前だっただけに、この手の監視はかなり気になる。
「どうしました?」
届け先の花術師のおばあさんに尋ねられる。
「嫌な気配がするんですよ」
ヤジマがそう答えれば、
「気配ですか?」
と、花術師のおばあさんが聞き返す。
「監視されているみたいです」
「まぁこわいこと」
おばあさんがそう言うと、
奥からキタザワが出てきた。
「花術師さん、ヤジマさん、運び終わりました」
と、やってくるキタザワに、
「伏せろ!」
と、ヤジマは怒鳴る。
条件反射で伏せるキタザワ、
ヤジマはすばやく銃を抜き、花術師のお店の一角を撃った。
硝煙のにおいがする。
キタザワはおっかなびっくりに身体を起こす。
「何が…」
「これだよ」
ヤジマは店内の一角から、花術師の店内にそぐわない機械の塊を拾い上げた。
「気配の正体の一つだ…斜陽街中にもっとあるかもしれないな」
「一体誰が何のために…」
「知れば苦労しないよ…あ、花術師さん、びっくりさせてすみません」
「いえいえ…ありがとう」
ヤジマとキタザワは花術師の店をあとにした。
帰りがてらヤジマが話す。
「視線の感じもするし…斜陽街に監視カメラがついたと思って間違いないだろうな」
「斜陽街なんか監視して…」
「何の得があるかはわからない。以前いたところでは、こんな技術はなかったし…」
「扉屋の向こうはいっぱいですから…そこから?」
「おそらくはな。前科者はこういうときに弱いよな」
ヤジマが乾いた笑いをする。
そんなヤジマにキタザワは、
「前科があっても…斜陽街は守れませんか?」
と、真面目に言ってみる。
ヤジマは一瞬きょとんとするが、
「それもそうだな」
と、笑った。
嫌な気配は消えないけれど、
斜陽街を守れるだけ守ろうとヤジマは決めた。