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第154話 水槽

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

黒い扉の向こうの世界の物語。


ここは水路の多い町。

中には水路というより川としているところもあり、

それらがあちこち入り組んでいる。

水の上を行くボートもあれば、

水の下を行く地下道もある。

一般的な生活範囲は水の上だが、

水の下の地下街にも、

娯楽がないわけではない。


幼い恋人たちは、

家からちょっと離れた、地下街にやってきた。

そこには、巨大水槽の中で暮らしている、

動物たちを見ることができる、

いわゆる動物園があるのだ。


どこかの街では、動物園とはお日様の下らしい。

でも、この街でそんなことをしようものなら、

動物たちで、陸の部分がなくなってしまうかもしれない。

だから地下なんだな。

などと幼い男の子は思った。


巨大な水槽のようなガラスの向こう、

お日様の光に似せられた明かりの下、

象がいる。

「おっきいねー」

「うん」

説明書きを読むと、

明かりの調節を自動ですることにより、

昼や夜も地下動物園にあるらしい。

「次はライオンを見ようよ」

「ライオンは?」

「あっちだよ」

幼い恋人たちは手をとって走り出す。

置いていかれた象は、ゆったり水槽の中を歩いて、

もしゃもしゃと餌を食べていた。


ライオンは、象と同じような水槽の中で、お昼寝をしていた。

「絵本で見たライオンは、もっと怖そうだったわ」

「うん、強そうだったよね」

「強そうじゃないね」

「でも、起きたら怖いのかも」

「じゃあ、そーっと見てたら大丈夫かしら」

「そーっとだね」

ライオンは鼻をむずむずする。

夢でも見ているのかもしれない。

幼い恋人たちは、起きたら大変とばかり、そーっと離れていった。


「次は?」

「パンダ!」

水槽の動物園の中、

幼い恋人たちは疲れも知らずかけていった。

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