目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第153話 覚醒剤

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

鈍い色の扉の向こうの世界の物語。


大柄の男が運転する車に、

女が助手席に乗っている。

向かう先は、旧市街。

風景はだんだん、旧市街のうち捨てられたコンクリートの風景になっていく。


「ドライブ・ドライブ?」

大柄の男が聞き返す。

「通称『DD』最近出回っている、機械体および電脳に作用する…言ってみれば覚醒剤か何かみたいなものね」

女が答える。

以前喫茶店で篭城していた犯罪者を狙撃した女だ。

女の名前はソウ。

大柄の男の名前はトオル。


「で、この、DDが…」

「相当きついらしいわ。電脳ならウイルスと認識してもおかしくないくらい」

「なんでこんなもの」

「夢を見たいお年頃なんじゃないの?」

生真面目なトオルは顔をしかめる。

「DDだけ入るように、設定わざわざ変えるとか聞くわ」

「めんどうそうだなぁ…」

「まぁ、そのあたりも、売人がパッチ当てるから簡単なんだとか…いろいろ、噂だけならあるわ」

「で、それを取り締まれって?管轄違いじゃないんですか?」

「どうもね…」

と、ソウは溜息をつく。面倒そうに。

「DDの元締めらしいのが、DDの入っているジャンキーを…DDを介して操っているらしいのよね」

「ええと…DDで操って、犯罪を増やしているって?」

「まぁ、何かを隠す目くらましの可能性が高いけどね」

「で、旧市街に来たのは?」

「とりあえず売人に接触すること。…脳だけ残ればいいわ」

「やれやれ、人権が死語になるわけだ」

トオルは肩をちょっとすくめると、車の運転を続けた。


旧市街のビルの群れ。

コンクリートにひびの入ったジャングルの底を歩く。

夜ともなれば暗いかとトオルは思っていたが、

安っぽい電球がともされ、

異様な明るさを描いていた。


ソウは手首にノイズ除けと、本部から支給された、小型データベースを取り付けている。

小型データベースが売人の顔を覚えているらしい。

ソウがあちこちを眼球の動きだけで追っている。

ソウの視界では、電子処理がなされているだろう。


「いた」

ソウが小さくつぶやく。

と、視界の先にいた男が、突然逃げ出す。

「あいつよ!」

「向こうもデータ持ってたんだな!くそっ!」


ソウとトオルは旧市街を走った。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?