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第152話 不満

満たされていない男が斜陽街にやってきた。


男は道行く住人から、ここは斜陽街だと聞かされた。


満たされていない男は、何らかの理由で斜陽街にやってきたはずだった。

男は、斜陽街にやってくるとき、

記憶をなくしたらしい。

男がわかるのは、

自分が白い服を着ていること。

何らかの理由で斜陽街に来たこと。

そのくらいだった。


男は斜陽街の空気を胸いっぱいに吸い込んでみる。

それでも、どこかは、満たされない。

男は空気を吐き出した。


『無法地帯』


という誰かの言葉が思い出された気がした。

斜陽街のことだろうか?

確かに建物は雑多としている。

色彩は曖昧としている。

それでも、無法地帯と言うには、

斜陽街は違うと思った。

治安もよいようだし、

犯罪のにおいもしない。

ただ、雑多としている建物が古びていて個性的で、

男の感覚では、無法とは違うように感じた。


男は満たされていなかった。

記憶が飛んだときに満たされなくなったのか、

あるいはそれなら記憶が戻れば満たされるんだろうか。

男は感覚だけで感じる。

記憶だけじゃなく、何かが満たされていないと。


『その街を見聞きして来るんだ』


また声がした。

これは記憶の声。

男の声ではない、誰かの声が、そう言っている。

では、斜陽街を見るために男は送り込まれたのだろうか。

男はその辺の記憶はない。

記憶はないが、ただ満たされない。


男は斜陽街を歩く。

店を構えるもの、

家があるもの、

どうやらたまに浮浪者もいるようだ。

ここには人が住んでいて、その日その日を生きている。


(ああ、生きている街だ)


男は感じた。

この街だったら、生き返ることができるかもしれない。

そんなことも思った。

どうしてそんなことを思うのかはわからなかった。


男は今の自分には不満だった。

満たされていないから。

でも、斜陽街には不満は感じられなかった。

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