目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第146話 塔

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

龍の彫られた扉の向こうの世界の物語。


ある町に、ロンという男がいた。

年の頃25。

ロンは、町のとあるグループのリーダーだ。

ロンより年上もいる。

ロンより年下もいる。

女も子どももいる。

けれど、あまり年配者はいない。

若いグループだ。


その町には、伝説がある。


町に高い塔が立っている。

その塔の一番上には、龍鈴というものがあるという。

その龍鈴を鳴らすと、

新たなる町の支配者になれると。

そんな伝説だ。


今は封鎖されていて、

塔に入ることはできない。

この町を支配するものが、

支配権をとられるのが嫌なのか、

…まぁ、伝説は伝説、と、ロンは頭を振った。


ロンが考え事をしていると、

グループのメンバーが、飯ができたとロンの部屋に来た。

「今行く」

と、ロンは返し、

メンバーも出て行った。

ロンは塔を見る。

高い高い塔は、

なるほど、天に昇ろうとする龍に見立てたのだろうと思った。


「ロン、また、塔を眺めてたの?」

話しかけてきたメンバーに、

「まぁな」

と、ロンは苦笑いする。

「ロンなら新しい町のリーダーにふさわしいと思うのに」

「俺はそんな柄じゃないよ」

ロンは粥をすすりながら、やっぱり苦笑いする。

「ロン」

「なんだ?」

「もし、俺たち全員がサポートして、塔に登らせると言ったらどうする?」

「俺はそうまでされるものでもないさ。それに、このグループが一番好きだし、俺は多くは望まん」

「変なリーダーだな。相変わらず」

メンバーは笑った。

ロンも笑った。


部屋に戻ってきたロンは、

窓から塔を見る。

天に昇ろうとする龍が、

がんじがらめになっているような気がした。

龍鈴を鳴らせば、がんじがらめから解放されるだろうか。

そんなことを考えたが、

「俺は町のリーダーの柄じゃない。せいぜいグループのリーダーどまりだ」

そう思ったが、

がんじがらめの龍のイメージは、払拭されなかった。


ロンはまた、部屋で物思いにふけるのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?