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第144話 水路

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

黒い扉の向こうの世界の物語。


その街は水路が多くて、

あちこちに運河があった。

人は船やボートに乗って暮らしていた。


街に、年の頃10にも満たない、幼い男の子と女の子がいた。

二人は、二人で言うところの恋人同士で、

小さな頃からずっと一緒で、

大きくなってもずっと一緒の計画を立てている。

幼いながら、だけど。


親は子どもの戯言と受け止めている。

けれど、二人は真剣で、

大人になったら、きっと結婚する。

そう、宣言していた。


男の子が、運河を行くボートに乗れるようになったのは、つい最近のこと。

一人でボートを動かすことができるようになった。

ボートに、はじめて一緒に乗せたのは、恋人の女の子。

親でもなく、兄弟でもなく、

この女の子を、はじめてにしたいと思った。

ある夕方、男の子は女の子をボート乗りに誘った。


「どこか行きたいところありますか?」

男の子が大人っぽく聞けば、

女の子が、

「灯台が見えるところに行きたいわ」

と、やっぱり大人を真似て答える。


ボートは夕暮れの運河を行き、

街の中の公園近くでとまった。


「ここ?」

「うん、おいでよ。とっておきの指定席なんだ」

男の子が女の子の手をとって歩き出す。


公園にはジャングルジムがあり、

男の子はそれに登りだした。

女の子も追った。


二人がジャングルジムのてっぺんに座ると、

公園の、ずっとずっと向こうから、光の束が見えた。

くるくる回っている。

灯台の光だ。


「ここだけ、建物に邪魔されないで灯台の光が届くのが見えるんだ」

「とっておきだね」

「今度、もっと乗れるようになったら、港まで行こうね」

「うん」


幼い恋人たちは、約束をした。

夕闇がすぐそこまで迫っていても、

幼い恋人たちは二人よりそっていた。

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