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第142話 食堂

斜陽街三番街。

がらくた横丁の近くに空き地があった。


それは過去形。

今は、屋台の食堂がある。

小さな空き地に、椅子とテーブルが並んでいる。

その奥に、屋台がある。

雨が降れば、屋根代わりに大きくビニールを空き地の上に広げる。


屋台で食事を作るのは、頑固そうなおじいさん。

食事を空き地の席に運ぶのは、にこにこしたおばあさん。


最初は、屋台をおじいさんとおばあさんで引っ張ってきたのが始まりだった。

空き地に店を構えようと、老いた身体で一生懸命になっているところを、

がらくた横丁の住民が見つけ、

斜陽街の住人が、なんだかんだと世話を焼き、

協力して露天的な屋台の店になった。


おじいさんとおばあさんの素性は誰も問わない。

ただ、悪い人ではない、それから食事がおいしいとは、斜陽街の住人の一致した意見だ。


「ここにいていいんですかねぇ…」

おばあさんは、お客の途切れた頃、

屋台の席に座って、お茶を飲む。

「まぁ、他にどこにもありませんでしたけど…いいんですかねぇ、みんなによくしてもらって」

おばあさんが、ほうと溜息をつく。

「精一杯の飯で返していくしかないだろう」

おじいさんはボソッとそう言った。

「そうですねぇ…」

おばあさんは、斜陽街になじもうとしているおじいさんに、微笑んだ。

「そうそう…皆さんがつけてくれた、ここの名前がありましたねぇ…」


「まんぷく食堂のおばちゃん!ご飯食べに来たよ!」

元気そうな兄弟がやってくる。

その後ろから、がらくた横丁の誰かがやってくる。

「まんぷく食堂の生姜焼きくれないかな」


「まんぷく食堂」


誰かがつけた名前。

幸せにまんぷくになる食堂。

だから、まんぷく食堂。

誰がつけたかは知らないけれど、

なんだか納得してしまう名前。


おじいさんとおばあさんは、

今日も斜陽街の住人を満腹にしているはずだ。

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