空飛ぶ魚のシキと、異邦人のクウは、
番外地の廃ビルにやってきた。
番外地の廃ビルからは、
ものすごい夕焼けが見えることがあるらしい。
そういうことを聞いてやってきたのだ。
いつもシキはぺらぺらとしゃべる。
でも、廃ビルに来てからシキは少し無口になった。
クウはどうしていいかわからなかった。
でも、シキがいつものようでないのは、
おかしな感じがした。
階段を上っていく。
そして、屋上への扉を見つける。
その時、シキが言う。
「クウよ…」
クウが反応する。
「後悔しないか?」
クウは後悔というものがよくわからなかったが、
扉を開くことで答えた。
屋上から見える、
それは、ものすごい夕焼け。
クウは真っ赤になっている。
夕焼けで染められているのだ。
ならばシキは…と、クウが振り返れば、
シキは夕焼けから赤を受け取っている最中だった。
ゆるゆるとシキに赤が追加される。
クウがシキに近づく。
シキもそれは感じていた。
「クウ」
シキが名前を呼ぶ。
「これがお前に伝える最後のことだ…触れ」
クウがシキに触れる。
そして伝わる…言いようのない感覚。
次の瞬間がいいことのような気がする。
次の瞬間が悪いことのような気がする。
そんな感覚。
「クウ…それは希望と不安だ。いいことかもしれないのが希望、悪いかもしれないのが不安…」
クウがこくりと頷く。
「クウ…お前は…」
シキが言い出す。
「お前は…これから生まれる命なんだ…」
シキはそう言った。
「お前は生まれていない命なんだ。でも、これから生まれるんだ。斜陽街から旅立っていくんだ」
シキはクウに告げる。
「俺も薄々と感づいてはいたがな…いつまでも一緒じゃないってことはな」
クウはそこではじめて、表情を悲しそうにゆがめた。
「そんな泣きそうな顔するな…」
クウはふるふると頭を振る。
「クウ…もし、生まれても斜陽街のことを覚えていたら、また俺と斜陽街を歩かないか?」
クウは頷いた。
そしてクウは旅立っていった。
クウは始まりと同じように、不意に斜陽街からいなくなった。
廃ビルの屋上には、シキだけが残った。
シキはどこかで赤ん坊の産声が上がった気がした。
斜陽街の風が吹いた。
「またな」
シキはクウと名づけた異邦人にそう告げた。