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第138話 赤

空飛ぶ魚のシキと、異邦人のクウは、

番外地の廃ビルにやってきた。

番外地の廃ビルからは、

ものすごい夕焼けが見えることがあるらしい。

そういうことを聞いてやってきたのだ。


いつもシキはぺらぺらとしゃべる。

でも、廃ビルに来てからシキは少し無口になった。

クウはどうしていいかわからなかった。

でも、シキがいつものようでないのは、

おかしな感じがした。


階段を上っていく。

そして、屋上への扉を見つける。

その時、シキが言う。

「クウよ…」

クウが反応する。

「後悔しないか?」

クウは後悔というものがよくわからなかったが、

扉を開くことで答えた。


屋上から見える、

それは、ものすごい夕焼け。

クウは真っ赤になっている。

夕焼けで染められているのだ。

ならばシキは…と、クウが振り返れば、

シキは夕焼けから赤を受け取っている最中だった。

ゆるゆるとシキに赤が追加される。


クウがシキに近づく。

シキもそれは感じていた。

「クウ」

シキが名前を呼ぶ。

「これがお前に伝える最後のことだ…触れ」

クウがシキに触れる。

そして伝わる…言いようのない感覚。

次の瞬間がいいことのような気がする。

次の瞬間が悪いことのような気がする。

そんな感覚。

「クウ…それは希望と不安だ。いいことかもしれないのが希望、悪いかもしれないのが不安…」

クウがこくりと頷く。

「クウ…お前は…」

シキが言い出す。

「お前は…これから生まれる命なんだ…」

シキはそう言った。


「お前は生まれていない命なんだ。でも、これから生まれるんだ。斜陽街から旅立っていくんだ」

シキはクウに告げる。

「俺も薄々と感づいてはいたがな…いつまでも一緒じゃないってことはな」

クウはそこではじめて、表情を悲しそうにゆがめた。

「そんな泣きそうな顔するな…」

クウはふるふると頭を振る。

「クウ…もし、生まれても斜陽街のことを覚えていたら、また俺と斜陽街を歩かないか?」

クウは頷いた。


そしてクウは旅立っていった。

クウは始まりと同じように、不意に斜陽街からいなくなった。

廃ビルの屋上には、シキだけが残った。

シキはどこかで赤ん坊の産声が上がった気がした。


斜陽街の風が吹いた。

「またな」

シキはクウと名づけた異邦人にそう告げた。

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