ヤジマとキタザワは、
宝石を全部処分して、
それでも持っていた、はした金で、
一番街のバーで酒を飲んでいた。
ヤジマはギムレットのグラスを見つめている。
何かを考えているようにも見えた。
沈黙が降りる。
「…ヤジマさん」
沈黙に耐え切れなくなって、キタザワが話し出す。
「どうした?」
「これから…どうするんですか?」
ヤジマはくいっとギムレットを一口飲む。
そして、何か吹っ切ったように、
「この街で商売でも始めようかと思ってる」
と、言った。
「この街で、やっていくってことですか?」
「ああ…悪い街じゃなさそうだし、もう、元の街に戻る道なんて忘れたからな」
きつい目のヤジマだが、
それでも穏やかに笑う。
キタザワはそれでも心配そうだ。
「商売なんて…何するつもりですか?」
と、たずねる。
するとヤジマは、
「宅急便屋でもやろうかと思ってる。荷物届けますってやつだ」
「宅急便屋…」
「幸い、この街あちこち空き店舗だからな。どこかに店を構えるさ」
ヤジマが席を立つ。
そして、一人で会計を済ませ出て行こうとする。
「ヤジマさん!」
キタザワが叫ぶように呼び止める。
「俺も、俺も、宅急便屋を手伝ってもいいですか?」
ヤジマは微笑む。
「重いものはお前に任せるか?」
と、いたずらっぽく言えば、
キタザワは大真面目に、
「任せてください!」
と、胸をたたいた。
会計を済ませ、
斜陽街の一番街に出てくる。
ヤジマは空気を吸い、吐く。
心地よいと感じた。
「宅急便屋っていうのも、何か愛称欲しいですよね」
「愛称?」
「黒猫とか、ペリカンとか…」
キタザワが列挙すれば、
ヤジマは笑う。
「ああ、それなら考えてある」
そして、
「『ヤジキタ宅急便屋』だ」
と、言い、また笑った。
「さぁて、どこがいいだろうな」
歩き出したヤジマを、キタザワが追いかける。
斜陽街に宅急便屋ができるのも、もうすぐのようだ。