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第135話 宅急便

ヤジマとキタザワは、

宝石を全部処分して、

それでも持っていた、はした金で、

一番街のバーで酒を飲んでいた。


ヤジマはギムレットのグラスを見つめている。

何かを考えているようにも見えた。


沈黙が降りる。

「…ヤジマさん」

沈黙に耐え切れなくなって、キタザワが話し出す。

「どうした?」

「これから…どうするんですか?」

ヤジマはくいっとギムレットを一口飲む。

そして、何か吹っ切ったように、

「この街で商売でも始めようかと思ってる」

と、言った。


「この街で、やっていくってことですか?」

「ああ…悪い街じゃなさそうだし、もう、元の街に戻る道なんて忘れたからな」

きつい目のヤジマだが、

それでも穏やかに笑う。

キタザワはそれでも心配そうだ。

「商売なんて…何するつもりですか?」

と、たずねる。

するとヤジマは、

「宅急便屋でもやろうかと思ってる。荷物届けますってやつだ」

「宅急便屋…」

「幸い、この街あちこち空き店舗だからな。どこかに店を構えるさ」

ヤジマが席を立つ。

そして、一人で会計を済ませ出て行こうとする。


「ヤジマさん!」

キタザワが叫ぶように呼び止める。

「俺も、俺も、宅急便屋を手伝ってもいいですか?」

ヤジマは微笑む。

「重いものはお前に任せるか?」

と、いたずらっぽく言えば、

キタザワは大真面目に、

「任せてください!」

と、胸をたたいた。


会計を済ませ、

斜陽街の一番街に出てくる。

ヤジマは空気を吸い、吐く。

心地よいと感じた。


「宅急便屋っていうのも、何か愛称欲しいですよね」

「愛称?」

「黒猫とか、ペリカンとか…」

キタザワが列挙すれば、

ヤジマは笑う。

「ああ、それなら考えてある」


そして、

「『ヤジキタ宅急便屋』だ」

と、言い、また笑った。


「さぁて、どこがいいだろうな」

歩き出したヤジマを、キタザワが追いかける。


斜陽街に宅急便屋ができるのも、もうすぐのようだ。

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