合成屋のもとに、
花術師から、種が渡されてしばらくした。
そろそろ試してもいいかな、と、合成屋は思った。
しかし、何と合成させるか、
それが今まで問題だったが、
合成屋の義手を通してであるが、
種に触れたときに感じたイメージを、もとにして合成することにした。
合成屋が感じたのは、
海。
種の中に海を感じた。
そして、合成屋はそのイメージを導くものを、しばらく探していた。
水は賢者の井戸にある。
ならばと合成屋が思いついたのは、
音屋で海の音をもらうことだった。
とりあえずカセットテープに海の音をもらい、
合成屋はこの日を迎えた。
賢者の井戸に、
花の種と、海の音を投げ込む。
そして、もにゃもにゃと呪文を唱え…えいっ!と、賢者の井戸を蹴飛ばす。
そして、賢者の井戸から合成されたものが飛び出す。
飛び出してきたのは…花だ。
小さな無数の花が、
根っこごと、一株出てきた。
合成屋は花を鉢に植える。
作業を終えると、
無数の花々の、花の中心は、水がたまっていることに気がつく。
そして、それぞれから音がするような気がする。
合成屋は店の奥から虫眼鏡を取り出し、
花を覗き込む。
仮面には目の穴は開いていない。
けれども合成屋は虫眼鏡をのぞきこむ。
ある一つの花の中心は瓦礫の町に朝の来た海だった。
ある一つの花の中心は断崖絶壁の海だった。
ある一つの花の中心は穏やかな凪の海だった。
花の中心にある水が、レンズのようになって、
海という海を映し出している。
そんな花が無数にあった。
「なるほど海らしいなぁ」
合成屋はこの花に『海の花』と名付けると、
花術師に見せに、花を持って出て行った。
「花術師さん、びっくりするかなぁ」
合成屋の足取りは弾んでいた。
もっとも、表情は相変わらず仮面でわからないけれども。