空飛ぶ魚のシキと、異邦人のクウは、
斜陽街の番外地を歩いていた。
一番街のバーのマスターから、
番外地に店を出した砂屋なら、
色とりどりの砂が集まっているはず…と、聞いて、
シキとクウは番外地を歩いていた。
別段急がず、
いつものように。
路地を寄り道しながら、
シキとクウは砂屋にやってきた。
クウが入り口を開けると、
あまり広くない店内に、
なるほど、色とりどりの砂がそろっていた。
「いらっしゃい」
店の奥から砂屋の店主が顔を出す。
「砂が要るのかい?」
編み笠をかぶった店主は、たずねる。
「いや、俺は色を探しているんだ。気に入った色を俺につけるんだ」
「なるほど色をね」
砂屋の主人は、しゃべって空を飛ぶ魚や、色が欲しいという突拍子もないことに驚かない。
斜陽街にすっかり馴染んでいる。
「そいじゃ、店の砂をちょっと見せてもらっていいかな」
「おお、どうぞ」
シキはふよふよと砂屋の店内を飛ぶ。
「ふむふむ…」
と、色とりどりの砂を物色する。
クウが何かに気がつき、
飛んでいるシキをわしっと捕まえた。
「ぶわっ!」
驚いているシキをよそに、クウはある砂のところまで引っ張っていく。
そして、少ないけれど、
きれいな青い砂を指差す。
「こりゃ…宝石の砂か?」
シキが驚いたように砂に見入る。
「お目が高いね。それは宝石が要らなくなった人から譲り受けて砂にしたものでね」
「よし!砂屋さん、この色をもらってもいいか?」
「元値はないしね。色でも何でも持って行っていいよ」
宝石の青い砂から、シキに、
色がゆるゆると移る。
シキに青が追加された。
シキがクウの方に振り返る。
「さぁて、クウ…わっ!」
シキが言う前に、
クウはシキをぎゅっとした。
何か遠くに、いいものがあるのを感じる。
そこまで行けば手に入るような。
手に入れたいと思った。
でも、遠いなとも感じた。
「クウ…それは、あこがれってやつだ」
クウは頷いた。
シキとクウは、
また、斜陽街を歩きに行った。
「お前とどこまで歩けるかな…」
シキがポツリとつぶやいた。
クウはその意味がわからなかったけれど、
シキとなら一緒でもいいなと感じていた。