扉屋の瓦礫撤去作業を終えた探偵は、
ぶらぶらと番外地を歩いていた。
適当なところで、
ふと思い当たり、
胸ポケットから煙草を取り出す。
そして、マッチで火をつける。
煙を吸い込み、
ふぅ…と、煙草を味わう。
番外地の路地の壁にもたれかかり、
探偵は煙草を吸った。
すると、
「おや、珍しい蛍かと思いました」
と、飄々とした声がする。
タキシードに身を包んだ、螺子ドロボウだ。
探偵のような、薄汚れたコートではない。
螺子ドロボウは、いつもきりっと正装している。
「俺の螺子でも盗みに来たか?」
探偵がくわえ煙草で話せば、
「いいえ、珍しい蛍の仲間になろうと思いまして」
螺子ドロボウはポケットから上等そうな煙草を取り出す。
「マッチまだあります?」
「ライターくらい持ってないのか?」
「マッチの火の方が好きなんです」
探偵は螺子ドロボウの煙草にマッチで火をつける。
螺子ドロボウがうまそうに煙草を吸う。
螺子ドロボウが、何か思いついたように話し出す。
「そういえば…」
「何だ?」
「斜陽街じゃないところでは、探偵とドロボウって、追いかけっこするみたいですよ」
「お前相手にか?疲れるだけだ」
探偵はそう言い、短くなった煙草を、
助手に持たされている携帯灰皿に入れ、
もう一本煙草に火をつけた。
その一連の仕草を螺子ドロボウは見ていて、
「そうですね、追いかけられるのなら、やっぱり螺子師のほうがスリルがありますね」
「その前に追いかけられるようなことをしなけりゃいいだろ…」
「螺子ドロボウは、やめられませんよ」
と、螺子ドロボウはくわえ煙草で笑った。
探偵は煙草を、また、携帯灰皿に入れる。
ついでにと、螺子ドロボウの煙草も携帯灰皿で消す。
「これからどうするんだ?」
探偵は螺子ドロボウになんとなく問いかける。
「さぁ?」
と、螺子ドロボウは笑うと、
斜陽街の路地に消えていった。
探偵は、事務所に戻ってちょっと眠るかと思っていた。
これ以上仕事があるとは思えなかった。