これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
雪の結晶の模様の彫られた扉の向こうの世界の物語。
研究所の崩壊が収まったことを遠くから確認した少年達は、
すぐに研究所の瓦礫に向かって行った。
埋もれているかもしれないアキを探すため。
まだ夜の中。
少年達はそれでも研究所の瓦礫をあさっていった。
怪我をしたスイも加わっていた。
そして、スイは、瓦礫の中にあたたかな感触を見つける。
そして、見つける。
見間違うこともない、スイがアキにあげた赤いジャケットの袖。
直ちに少年達が集まり、
その場所が掘り出された。
少女がいた。
少年達が探していた、少女がいた。
ぼろぼろになっていたけれど、
アキは瓦礫の中で生きていた。
夜の冷気にさらされ、
瓦礫から掘り出された、アキがくしゃみして目を覚ます。
見ればスイからもらったジャケットはぼろぼろだ。
スイはそのあたりを見渡すと、
あたたかそうな編物が、
瓦礫の山の扉の前に落ちているのを見つけた。
妙な扉だったが、スイはすぐに扉のことを忘れた。
スイはアキに編物をかける。
「アキ、くるまっておけよ」
「…スイも一緒があったかいよ」
少年達が安堵の表情でそのやり取りを見る。
やがて…その彼らのもとに光が差し込む。
瓦礫の山の上に光が。
「太陽…」
少年達はまぶしそうに太陽を見る。
「瓦礫の町にも朝は来るんだよ。スイ」
アキがそう言って笑う。
「ああ…ずっと朝は、この研究所で隠れていたんだな…」
「スイ」
「ん?」
「いろいろ言いたかった気がするけど、いいや」
アキはスイに身をあずけた。
スイは黙ってそれを受け止めた。
そして、彼らは瓦礫の上で、
新しい朝を肌で感じ…
それはまた、彼らの町の復興への夜明けだった。
明けない夜はなかった。
戸惑う太陽は昇った。
瓦礫の町にも太陽が昇った。
スイとアキは編物にくるまり、
穏やかに微笑んでいた。
これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
雪の結晶の模様の彫られた扉の向こうの世界の物語。