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第130話 光

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

雪の結晶の模様の彫られた扉の向こうの世界の物語。


研究所の崩壊が収まったことを遠くから確認した少年達は、

すぐに研究所の瓦礫に向かって行った。

埋もれているかもしれないアキを探すため。


まだ夜の中。

少年達はそれでも研究所の瓦礫をあさっていった。


怪我をしたスイも加わっていた。

そして、スイは、瓦礫の中にあたたかな感触を見つける。

そして、見つける。

見間違うこともない、スイがアキにあげた赤いジャケットの袖。


直ちに少年達が集まり、

その場所が掘り出された。

少女がいた。

少年達が探していた、少女がいた。

ぼろぼろになっていたけれど、

アキは瓦礫の中で生きていた。


夜の冷気にさらされ、

瓦礫から掘り出された、アキがくしゃみして目を覚ます。

見ればスイからもらったジャケットはぼろぼろだ。

スイはそのあたりを見渡すと、

あたたかそうな編物が、

瓦礫の山の扉の前に落ちているのを見つけた。

妙な扉だったが、スイはすぐに扉のことを忘れた。

スイはアキに編物をかける。

「アキ、くるまっておけよ」

「…スイも一緒があったかいよ」


少年達が安堵の表情でそのやり取りを見る。


やがて…その彼らのもとに光が差し込む。

瓦礫の山の上に光が。

「太陽…」

少年達はまぶしそうに太陽を見る。

「瓦礫の町にも朝は来るんだよ。スイ」

アキがそう言って笑う。

「ああ…ずっと朝は、この研究所で隠れていたんだな…」

「スイ」

「ん?」

「いろいろ言いたかった気がするけど、いいや」

アキはスイに身をあずけた。

スイは黙ってそれを受け止めた。


そして、彼らは瓦礫の上で、

新しい朝を肌で感じ…


それはまた、彼らの町の復興への夜明けだった。


明けない夜はなかった。

戸惑う太陽は昇った。

瓦礫の町にも太陽が昇った。


スイとアキは編物にくるまり、

穏やかに微笑んでいた。


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

雪の結晶の模様の彫られた扉の向こうの世界の物語。

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