電脳娘々は、邪気を追っていた。
相変わらず、邪気の逃げ足は速い。
これ以上斜陽街で騒ぎを起こされると困る。
そう思っていた。
邪気は番外地の一角のほうに逃げていった。
鳥篭屋や扉屋がある方だ。
路地を邪気が曲がっていった。
電脳娘々もそのあとを追う。
一方、
鳥篭屋から出てきた夜羽は、
黒い不定形のものが、すごい速さで駆けて来るのを見た。
そして、電脳娘々が追いかけているらしいこともわかった。
夜羽は鞄から空テープを取り出す。
妄想も何も入っていないテープだ。
そして、黒い不定形のものが夜羽に近づいてきたところで、
夜羽はフィルムテープをしゅるっと指で取り出す。
そして、テープで黒い不定形を雁字搦めにしてしまう。
黒い不定形は、もがくが、
夜羽のテープが絡み付いて動けない。
やがて、電脳娘々が息を切らして夜羽のもとにやってくる。
「あー…捕まえてくれたの?」
「なんだか、悪そうなものだったから、一応」
「それ、邪気なんだって」
「なるほど悪そうだ」
夜羽はテープの帯で動けなくなっている邪気を見た。
「一応動けなくしたけど、ちゃんと捕まえておいたほうがいいと思うよ」
「ん、それじゃCD-Rにでも焼いておくわ」
「容量足りるんですか?」
「少なくとも、カセットテープの帯よりはたくさん情報が入るわよ」
「そんなものですか」
「夜羽もカセットテープからCDにしたら?」
電脳娘々が笑いながら言えば、
「僕はカセットテープが好きなんです」
と、夜羽はちょっと憮然としたようだ。
「ところで、バーのオプションのような夜羽が何でこんなところに?」
電脳娘々がたずねる。
「斜陽街にちょっと迷い込んだ少年に、鳥篭をお土産に持たせようと思いまして」
「ふぅん…自分の妄想テープと言い出さないだけ、趣味いいわね」
「…それ、どういう意味ですか?」
「まぁいいわ。とりあえず邪気はもう動けないのよね」
「ええ、テープごと持って行きます?」
「ん、もらってくわ」
夜羽は邪気を電脳娘々に引き渡すと、
ふらりと扉屋に向かっていった。
「さ、きりきりついてくる!」
電脳娘々は、帯で雁字搦めになった邪気を、
電脳中心まで連行して行った。