黒い風が去って以降、
番外地も平穏になった。
特に、廃ビルからの歌に悩まされていた人形師は、
人形が思いを溜め込むこともなくなり、
平和な日々を満喫していた。
人形師は本来の趣味に没頭することにした。
それは、人形を使って、びっくりさせることだ。
人形師は、とりあえず、番外地仲間のスカ爺に見せようと、
びっくりさせる人形を考え、作っていた。
そして、落書きのような人形が一つ出来上がる。
人形師がスイッチを入れると、
ばねの目玉や鼻や耳が、びよーんと飛び出して、ぶらぶらするという代物だ。
ついでにお気に入りの人形を、鞄の中に数体連れて行き、
人形師は八卦池に向かった。
人形師が八卦池にやってくる。
「どうも」
と、挨拶すれば、
うとうとしていたスカ爺は、
「おお、これはこれは…」
と、出迎えた。
「早速ですが、この人形を見てください」
「ほう、どれどれ…」
スカ爺が視線を人形に合わせ、見ているのを確認すると、
人形師はスイッチを入れた。
びよーん
間の抜けた音を立て、目鼻などが飛び出す。
「ほう!」
と、スカ爺がびっくりしたらしい。
「これはこれは…よい人形でござるな」
人形師は「おや?」と、思った。
「あの、飛び出たことにびっくりしたのでは…」
「おお、飛び出ていたな。しかし、いい人形だ。さすが人形師でござるな」
「ふぅむ」
人形師はため息をつく。
しかし、結果的にびっくりしてくれたのでいいとしよう。
「ほかにも数体お持ちしました」
と、人形師が鞄から人形を取り出す。
「ほうほう。いつもながらよい仕事をしている」
スカ爺はいちいち感心している。
番外地の一角で、
番外地仲間が談笑していた。