目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第124話 痛覚

螺子師は出張して、二番街の占い屋に来ていた。


占い師もたずねて来た人を、

占うだけ占って流しているわけではない。

たまには、相談にのったりもする。

結果、思いがたまってしまって、

螺子師にそれを少し抜いて軽くしてもらう。

螺子師がすることは、

頭の螺子を少し緩め、

そして、思いの過剰な分が出たことを確認すると、

また、螺子を締めなおす。

これが今回螺子師が出張した理由の一つだ。


もう一つは…


「ふぅ」

と、螺子師が溜息をつく。

「占い師さんの顔ぶれはこれで全部でしたっけ?マダム」

螺子師が占い屋のマダムを見る。

「ん、そう。じゃ、今度はあたしのもお願いね」

「はい」


螺子師は工具を変え、

微調整ができるドライバーにする。

そして、螺子師の資格を取ると見えるようになる、

螺子にドライバーを当てる。


「…っつ…」

マダムが少し声を上げる。

「戻ってきましたか?」

「ん…もう少し…」

「かなり緩んでいましたね…いきます」

螺子師がドライバーを少し回す。

すると、

「いたたた!」

と、マダムが悲鳴を上げた。


「はい、これでいいでしょう」

と、螺子師はドライバーをしまう。

「ありがとう」

マダムはさっき悲鳴を上げたとは思えないほど、すがすがしく笑っている。

「しかし…変なコレクションするからじゃないですか?痛覚の螺子が緩むなんて…」

「やめられないんですもの」

と、マダムは艶然と笑う。

「痛みをなくしても欲しいものがあるの」

「程々にしたほうがいいですよ」

「忠告ありがとう」

「コレクションにされては、たまったものじゃないですから…では」


螺子師は工具を全部しまうと、

占い屋をあとにした。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?