螺子師は出張して、二番街の占い屋に来ていた。
占い師もたずねて来た人を、
占うだけ占って流しているわけではない。
たまには、相談にのったりもする。
結果、思いがたまってしまって、
螺子師にそれを少し抜いて軽くしてもらう。
螺子師がすることは、
頭の螺子を少し緩め、
そして、思いの過剰な分が出たことを確認すると、
また、螺子を締めなおす。
これが今回螺子師が出張した理由の一つだ。
もう一つは…
「ふぅ」
と、螺子師が溜息をつく。
「占い師さんの顔ぶれはこれで全部でしたっけ?マダム」
螺子師が占い屋のマダムを見る。
「ん、そう。じゃ、今度はあたしのもお願いね」
「はい」
螺子師は工具を変え、
微調整ができるドライバーにする。
そして、螺子師の資格を取ると見えるようになる、
螺子にドライバーを当てる。
「…っつ…」
マダムが少し声を上げる。
「戻ってきましたか?」
「ん…もう少し…」
「かなり緩んでいましたね…いきます」
螺子師がドライバーを少し回す。
すると、
「いたたた!」
と、マダムが悲鳴を上げた。
「はい、これでいいでしょう」
と、螺子師はドライバーをしまう。
「ありがとう」
マダムはさっき悲鳴を上げたとは思えないほど、すがすがしく笑っている。
「しかし…変なコレクションするからじゃないですか?痛覚の螺子が緩むなんて…」
「やめられないんですもの」
と、マダムは艶然と笑う。
「痛みをなくしても欲しいものがあるの」
「程々にしたほうがいいですよ」
「忠告ありがとう」
「コレクションにされては、たまったものじゃないですから…では」
螺子師は工具を全部しまうと、
占い屋をあとにした。