少し色のついた魚のシキと、異邦人のクウは斜陽街を歩いていた。
ふらふらと歩いて、
そして、斜陽街の一番街に出たらしい。
シキはあたりを見回していたが、
「あ!」
と、声を上げた。
「バーがある。カクテルっていい色しているんだよな。行くぞ、クウ」
クウは頷き、シキについていった。
バーの入り口のドアを開くと、
来客を知らせるベルが、カランコロンと鳴る。
「いらっしゃいませ」
と、カウンターの男が挨拶する。
「あ、ども」
と、シキが返し、
クウもおじぎをする。
シキはまた、あたりをきょろきょろする。
そして、
「ほかに従業員らしいのもいないな。あんたの店か?」
と、たずねる。
「まぁ…ここのマスターといったところです」
と、バーのマスターは返した。
「まぁいいや、何かきれいな色のカクテルもらえないか?」
と、シキが言えば、
「お見受けしたところお魚のようですが…飲めるのですか?」
「普通そう思うよなぁ…俺もそう思ってた」
と、シキは照れたように言った。
「俺は、色が欲しいからな…何かいい色をと思ったんだけど…ちょっと、カウンターの中を飛ばせてもらっていいか?」
「どうぞ」
と、言われると、
シキはふよふよとカウンターの中を飛び、
リキュールなどの瓶を物色する。
「どれもがそうのようで違うような…あ!」
「何でしょう?」
「マスター!これ!この緑色のおもちゃ!」
シキが示したのは、玩具屋で修理してもらった緑色のおもちゃだ。
「それは…」
と、マスターが渋る。
「いや、色をもらうだけでいいんだ。だめか…?」
マスターはふっと笑うと、
「色だけでしたら」
と、答えた。
おもちゃからシキにゆるゆると色が移る。
シキに緑色が追加された。
「それ、大事にしてやれよ」
と、シキは言い、
クウに向き直る。
「さ、いつもの儀式だ。触れよ」
クウは頷き、シキに触る。
伝わってくる、
自分にとても近い人たち。
その人たちを大事だと思う…これは、気持ち。
「クウ、近い人を感じてるだろ?」
クウは頷く。
「それは家族ってやつだ。家族を大事にしたい気持ちが伝わっているはずだ」
クウは頷いた。
そして、シキとクウは、バーをあとにした。
「俺には家族はいないけれど色がある。お前にも何かが加わっていく」
シキが呟く。
「あるいは、いずれ、家族もな」
シキは誰に対してでもなく、呟いた。